本研究は、19世紀フランスの作家ジュディット・ゴーチエによる日本関連全8作品を研究対象とし、第一の目的として、それらの制作経緯の調査と全体像の構築、第二の目的として、第一作小説『簒奪者』の生成過程の解明を目指している。二年計画のうち二年目に当たる2015年度では、それぞれ以下のような成果が得られた。 1.日本関連全8作品は、1875年から1912年に亘って書かれ、長短篇小説のほか戯曲もあり、主題も古代から明治に及ぶ歴史・恋愛・文学と幅広い。2014年度には、作品間で挿話や記述の使い回しが見られることを見出したが、2015年度は、1867年から1919年までの日本関連著作の全体像(年表)を構築したことで、(1)万国博覧会等の国際的行事・日本の報道・自身の経験を通して抱いた分野を問わない日本文化への関心から執筆を行っており、当時の一般市民が見た日本文化をその著作を通して描き出すことができること、(2)「神話と歴史」「伝統文化」「社会と風俗」「文学」といった多岐に亘る主題を扱い、それをエッセーや小説の形で一般市民に知らしめた功績があること、(3)日本学者の客観的研究と異なり、日本文化に対して興味・疑問・共感を抱く「現在の自分」に常に視点があるほか、同時期の問題に重ね合わせて作品創造を行っており、当時のヨーロッパ人の日本文化の受け取り方を今に伝える資料になっていることなどが判明した。 2.第一作小説『簒奪者』については、2014年度に続いて、作家が参照した日本関連書籍をいくつか特定し、手にしやすい一般書を読み込んで資料としていたことを見出した。そして、主題である大坂の陣には、普仏戦争や下関戦争といった同時期の負の記憶が重ねられていることを、テクストの語彙や作家の交友関係などから裏付けた。 今後はさらに、個別作品について、源泉調査から時代背景との関連性の考察まで行う予定である。
|