本研究では、中世室町期の注釈書の一種「抄物(しょうもの)」が、日本語史の資料としてどのような可能性を持っているかを、未調査の抄物における新規の言語事象を検証することで示した。 建仁寺両足院蔵「杜詩抄」(天正9(1581)年書写)では、繋辞「ヂャ」を用いた引用表現や、丁寧語「候」の濁音形「ゾウ」(に+候、繋辞)が多用されている。「ヂャ」と「ゾウ」は共に、「杜詩抄」が引く先行の抄物の一つで見られ、注釈内容で使い分けられている。抄物の元となる講義で、話題に応じた口調の切り換え(スタイルシフト)が行われていたことを反映したものと考えられ、抄物の新たな資料的価値を示す事象である。
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