本研究は、両世界大戦期及び戦間期において大英帝国において出版された女性作家による日本及び日本人の表象を分析するものである。 平成27年度はPriyambada Devi、Ada Elizabeth Chesterton、Edith Lyttleton、Lili Korberらに関する資料の収集と分析を行った。 Priyambada Deviについては、インドのコルカタにあるNational Library of India、University of Calcutta、Jadavpur University、またコルカタから160キロ程度北上したシャンティニケタンにあるVisva-Bharati Universityに赴き、資料収集を行った。National Library of Indiaにおいては、20世紀前半のコルカタで出版された英語及びベンガル語の雑誌を調査し、当時のベンガル知識人らによる大日本帝国、大英帝国に関する記事を収集するとともに、女性投稿者による日本の表象に注目した。資料の分析から、Deviの日本観が、岡倉天心との出会いのみならず、英国小説に影響を受けていることが分かった。 Chesterton、Lyttleton、Korberの3名については、ほぼ同時期に日本及び中国を訪れ旅行記を出版しているという共通点から、比較分析を行った。ChestertonとLyttletonは1933年、Korberは1936年にそれぞれ両国を訪れ、日本の帝国主義活動を目撃し、著書に記している。比較分析から、英国における日本の表象の劇的変化、また、旅行者の職業、社会的地位、人種、政治的信条等の個人的条件の差異により、大日本帝国の表象に隔たりが見られることが分かった。 本研究は、従来注目されてこなかった20世紀前半の女性旅行家による大日本帝国の表象に注目し、希少な資料を掘り起していること、また、英文学研究に日英印の3カ国関係の視点を取り入れたことに意義がある。
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