研究課題
本年度は、奴隷制廃止のプロセスについて、研究の目的で示した4つの層のうち、「インド洋西海域」、「イギリス帝国」、「世界全体」についての把握を一定程度、進めることができた。逆に、「ペルシア湾」についての進展はそれほど見ることができなかった。当初は、「ペルシア湾」をこなしてから、そのほかの3つの層に進む予定であったが、結果的には、逆のプロセスを歩んでいることになる。しかしながら、現在においては、このようなプロセスを踏むようになったことは、むしろ、プラスに作用していると考えている。すなわち、ペルシア湾における経験を取り出し、それを検討した後で、それをより大きな枠組みに落とし込んで改めて考察するよりも、より大きな枠組みをある程度、固めたうえで、ペルシア湾の経験を吟味するほうが時間的制約にかなっているからである。当初の予測では、「ペルシア湾」以外の3つの層は、かなり連動性が強いと考えていたが、現在までのところ、むしろ、それらのあいだには見過ごすことのできない隔たりも存在することが明らかとなった。したがって、ペルシア湾の経験を考える際には、それらをまとめるのではなく、むしろ、一定の連続性を踏まえたうえで、別個に考察する必要がある。これが次年度の研究指針となる。本年度は、現地調査が不十分であった代わりに、日本国内から可能な文献収集を積極的に行い、また、次年度に予定していた資料の整理についても、手元にあるものから進めた。その結果、マイクロフィルムについては、25本をデジタル化し、整理したうえで、利用の準備を完了させた。そのうえで、現在、次年度に予定している3本の国際会議報告に向けた準備に着手している。
2: おおむね順調に進展している
研究実績の概要に記したように、当初の計画で練っていた進め方とは逆になっているが、それに関しては、研究の進行上、大きな問題はなく、むしろ、それによって、より効率的な研究体制と明確な研究指針を得ることができた。本研究は、計画時より、初年度については、大きな成果を見込まず、むしろ、2年目に成果を出すことを想定していた。したがって、本年度は、そうした発表機会への応募にも時間を費やしたが、結果的には、次年度に3つの国際会議において、研究成果を報告する機会に恵まれた。それらを踏まえて、活字化をするのが最終的な目標となる。このように、全体の研究の流れのデザインとしては、ゴールまでの道筋を現段階で視野に収めることができているので、一定程度の評価をして良いと思う。本年度、海外調査の時間を十分に取れないというのは、想定外であった。ただし、海外の知人を頼るなど、日本にいるなかで可能な資料収集を行った。これに加えて、次年度に行うはずのデータの整理を今年度に前倒しをした。とはいえ、本年度実施できなかった分については、やはり重要かつ未収集のデータが存在するので、次年度の早いうちに実施し、挽回する。以上の点については、すでに述べたように、ある程度の柔軟性をもって、予定を前倒しにするなどして対応・調整したので、研究完成にはさしたる問題はなく、それゆえに、悲観視はしていない。以上を踏まえれば、現在までの達成度については、「おおむね順調に進展している」と評価してよいと考える。
上に書いてきたように、本年度は多少の研究予定の変更を行った。そこで、次年度は、本年度に行った「インド洋西海域」、「イギリス帝国」、「世界全体」の3つの枠組みを念頭にして、「ペルシア湾」における奴隷制廃止の解明に注力する。まず、4月末から5月上旬にイギリスと湾岸で文献調査を行う。とりわけイギリスではBritish Library, The National Archives、湾岸では、Qatar National Libraryでそれぞれ調査を行う。帰国後にはすぐに読解と分析に移り、それを踏まえて、5月末にシンガポールで行われるthe Asian Association of World Historians(南洋工科大学)にて報告を行う。6月上旬には、パリ・EHESSにおいて開かれる強制労働に関するシンポジウムに参加することになっており、ここでも同様の報告を行う。この場合、特に参加者は歴史学者だけでなく、現代の奴隷制にかかわる研究者やNGO関係者なども参加する予定なので、これまでとは異なる示唆を得られる可能性が高い。それを踏まえて、ブラッシュアップしたものを7月末に関西大学でひらかれる国際会議のディアスポラを主題とするセッションで報告する。上記の諸報告を積み上げるなかで、議論を鍛錬する。また、これと並行して、文献・実地調査を実施する。8月から9月にかけて、湾岸、イギリス、スイスにおいて文献調査を行う。双方を並行して行い、議論を補強しながら、年度末までには論文を書き上げ、投稿する段階まで到達するのが、今後のプランである。
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