平成26年度に続き、本年度も長崎県内における聞き取り調査を中心に研究を遂行した。本年度の研究実績は以下の通りである。 1.長崎市外海地区では、カクレキリシタン(外海地区下黒崎町における現在の自称は「かくれキリシタン」である)の歴史と現状について聞き取り調査を行った。その結果、①外海地区下黒崎町のカクレキリシタン習俗は1980年代以降大きな変化を遂げていること、②近年カクレキリシタン習俗を「文化遺産」と見なそうとする動きが強まっている一方で、カクレキリシタン自身はあくまでも「信仰」として続けており、両者の意識の差は大きいこと、が明らかになった。2.平戸市生月島のカクレキリシタンは、島内の博物館で年に2回オラショを公開しているだけでなく、島外の文化施設で公演を行う(観客を前に舞台でオラショを唱える)こともあり、外海地区のカクレキリシタンと比べて文化遺産化が顕著であることがわかった。3.平成27年1月に「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」が世界遺産候補としてUNESCOに推薦されたことから、構成資産と密接な関係がある平戸市のカクレキリシタンはもちろんのこと、構成資産とはほとんど関連性がみられない外海地区のカクレキリシタンもまたより一層各界の注目を集めていた。この傾向は、ICOMOSの中間報告を受けて平成28年2月に当該文化遺産の推薦が取り下げられるという事態が生じたことで、今後さらに強まる可能性が高い。というのも、ICOMOSの主な指摘は「禁教の歴史的文脈に焦点を当てた形で、推薦内容を見直すべきである」というものだったからである。4.本研究の成果の一部を日本民俗学会第67回年会におけて口頭発表した。
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