本年度は、倫理学における反合理主義的なアプローチに対するメタ倫理学的観点からの検討を行い、特にその批判的検討を試みた。中でも、反合理主義的なアプローチと合理主義的なアプローチがどのような関係を結びうるかを明らかにするために、G.E.M.アンスコムやB.ウィリアムズの理論を集中的に検討した。 具体的には、R.M.ヘアらの合理主義的なアプローチを徹底的に批判したアンスコムとウィリアムズの議論を参照することで、合理主義的なアプローチを支える広い意味での帰結主義的思想の内実とその問題点を明確にした。次に、アンスコム自身がその問題の解決策として提示したニーズや様相に基づく議論、あるいはウィリアムズによる功利主義への対案を描出することで、反合理主義的なアプローチがどのような形で、自説を基礎づけているかを明らかにした。 その上で、両者のうち特にウィリアムズを批判しているT.ネーゲルの議論を中心として、反合理主義的なアプローチに対する反論を取り上げ、その是非を問うた。結論としては、合理主義と反合理主義はそれぞれもっとも根本的な世界の視方そのものであり、結局、互いを論駁することはできないということが明らかになった。そこから、今後の研究への示唆として、世界を「視る」というモデルそのものに対する反省が、ひとつの切り口になるのではないかという着想を得た。 また、これらの成果として、「倫理学における内的視点と外的視点 ~ 「全一性に基づく反論」と間接功利主義」、および「アンスコム、 “Modern Moral Philosophy ”の処方箋」の二論文を執筆した。
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