昨年度に実施したプルースト・ラスキン研究の分野における先行研究の整理を踏まえ、プルーストが目を通していたと考えられる1900年前後のフランス・イギリスにおけるラスキン研究を調査・収集した。国内の図書館の調査や海外の古書店での購入で得ることのできない資料がある場合、ラスキン・ライブラリー(イギリス・ランカスター大学附属)での調査を行う予定であったが、東京の一般財団法人ラスキン文庫での調査で充分だったので、これに代えた。
さらに、本年度の研究では、プルーストによって書かれたラスキン関係のテクスト、すなわち1900年1月27日に初めてラスキンについて発表した記事にはじまり1909年に書かれたことが分かっているラスキン論まで9年の間に作家によって書かれたラスキンにまつわる批評に翻訳を含めたすべてのテクストを対象として、分析を行った。プルーストは『アミアンの聖書』と『胡麻と百合』の翻訳につけた序文と註釈で既に自分が書いたテクスト(新聞記事や雑誌記事)を利用していることが知られているが、この再利用は断片的であると同時に、ときには改変されているといったように、全体像を把握するのが極めて難しいものである。本年度の研究では、実際にどのようにプルーストがラスキン関連の文章を書き進めていったのか、またその際に既に存在したラスキンのフランス語訳や批評文をどのように利用したのか、といった観点から資料の整理を行った。この作業によって、これからテクストを編む準備をした。
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