2015年度はまず、昨年度から引き続き、バルカン戦争に関連する研究書の収集を進めた。特に、昨年度は集めることができなかった、トルコやセルビアなどのバルカン各地で刊行されている研究書を収集することができた。例えば、『バルカン戦争1912-1913 新たな視点と解釈』(ベオグラード、2013年刊行)という論集では、従来のバルカン戦争に対する見方を刷新すべく、戦争中に問題とされた伝染病や人道的介入をめぐる史実等が明らかにされ、戦争をめぐる新たな解釈が提示されている。今後は、これらの研究書の精読も進めることで、本研究課題に関わる新たな知見を得ていきたい。 また最終年度である本年度は、8月に約3週間オーストリアのウィーンに滞在し、オーストリア国立文書館にて史料の調査・収集を行った。特に、本研究課題との関連で、帝国全般の移住・帰還に関する問題を扱っていた内務省と共通陸軍省の史料を調査した。筆者は、これまでボスニアの統治機関たる共通大蔵省関連の史料の調査・収集に集中してきたため、上記の史料群については所蔵状況等全く把握できていなかったためである。調査の結果、内務省の所蔵史料にはボスニアのイスラーム教徒関連のものがわずかしか発見されなかったが、共通陸軍省の所蔵史料からは、当時のボスニア総督ポティオレクが、バルカン戦争期の内政及び外交状況に関して、共通大蔵省や共通外務省と意見交換している文書群を見つけることができた。これらの文書は、軍関係者がボスニア統治をいかに実践しようとしたのか、という点を詳らかにするうえで非常に重要なものであり、イスラーム教徒の帰還にむけた外交交渉や帰還後の定住政策の方針決定、といった本研究の具体的課題を解明するうえでも非常に有益となる。現在は、複写して持ち帰ったこれらの史料の分析を進め、研究成果の発表の準備を進めている。
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