本研究は、平成27年度、以下の4点を行った。 (1)日本語指示詞のソが担う文脈指示の歴史的変化について、中古から近世を中心に考察した結果を、「そこはどこ―指示について―」『尾道市立大学日本文学論叢』にてまとめた。文脈指示としてソのみが生起する環境の整理、また各時代の資料ごとによる指示対象の傾向などを示した。(2)中世期の文献資料である抄物を中心に、平成26年度から指示詞、とくに文脈指示のソに関して用例を収集してきた。これらの例と合わせ、不定語(イヅコ・ドコなど)との類似点・相違点について、研究協力者の松本朋子氏と議論を重ねた結果を「指示語ソコと不定語イヅコ・ドコについて―中古・中世を中心に―」(土曜ことばの会、松本朋子氏との共同発表)にて発表、この成果を踏まえ、指示詞や不定語のもつ空欄度に焦点をあてて「ソ系列指示詞と不定語との関連―中古・中世を中心に―」(日本言語学会)にて発表を行った。(3)(1)および(2)の発表内容、また研究協力者の協力のもと作成した(2)の抄物(前期・中期・後期)を対象として収集・整理した用例集について、報告書として公刊した。 (4)観念指示の歴史的変化を心的処理の側面から検討し、「古典語におけるソ系とア系の切り替わり―中古―」(研究発表会「バリエーションの中での日本語史」)にて発表した。なお、この発表はシンポジウム「日本語指示詞における地理的・歴史的変異の研究」に含まれており、指示詞の現代語および方言、他言語の対照についての議論を踏まえた上で古典語を対象に行った発表である。
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