計画初年度である今年度の活動およびその成果は、概略、次のとおりである。 (1)滄源県西部における未解明インド系文字の使用実態の解明:2月に滄源県西部の班洪・班老地区においてフィールド調査を実施し、仏教寺院におけるインド系文字資料の確認と普及活動についての情報収集、および周辺集落におけるリテラシーの実態把握をおこなった。その成果として、このインド系文字の実態およびそのリテラシーの状況について、調査報告をまとめている。 (2)政府式転写法の作成過程および教育・普及活動の解明:政府式転写法の作成に関わる論文報告の精査、および今日に至るまでの教育的活動の分析を実施した。その成果は次の3点である。(2a)研究者と話者、それぞれにとっての表記のあり方についての検討:政府式転写法の作成経緯や試行過程を踏まえ、研究者と話者それぞれが求める表記法について考察をおこなった。(2b)碑文テクストのテクスト化:滄源県西部の班洪地区には、1934年の抗英戦争に関する碑文が残されている。政府式転写法と漢字からなる本碑文を実見し、言語学的分析に基づくテクスト化をおこなった。(2c)無文字社会における他者記録の利用:長らく無文字の状態であったワ族社会において、他民族による記録は民族言語の過去を知るための貴重な資料となる。政府式転写法創出前後に出版された『社会歴史調査報告(一)~(四)』を題材に、ワ語の漢字音表記による記述を分析した。
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