本研究は、単文での(非)容認性判断と、談話文脈における容認性判断が、互いに相反する文法現象を考察し、その原因を原理的に説明することを目的としている。本年度前半は、結果構文の目的語省略(例:*John broke _ into pieces/ vs. I wipe _ clean and you sweep _ clean. ※下線は省略された目的語)について研究を進めた。2015年8月には、オーストラリア連邦シドニー市での街頭アンケート調査を行い、多くの英語母語話者から当該現象に関するデータを収集することができた。結果として、結果構文の目的語が省略されるためには、(i) 目的語が働きかけの対象として動詞の語彙的意味に含意されていること、(ii) 出来事が無時間的 (atemporal) であるか、あるいは状態変化を引き起すことに焦点があること、という条件が存在することを明らかにした。この成果を2つの研究会で発表し、論文としてまとめたものを『言語文化研究』に投稿し、出版した。 後半は日本語の身体部位名詞を伴う再帰表現の受動化(例:「大勢の観客から手が振られ、振り返された」)の考察も深めることができた。当該構文が受動化されるためには、動作主の存在が意味構造において抑制されなければならない。つまり、動作主の存在が背景化され、事象の参与者として見なされないという条件が存在する。これは、英語でも同様のことが当てはまり、通言語的な原理であると言える。その成果を日本語文法学者が主催する研究会で発表させていただき、有益なコメントを頂戴した。加えて、日本語文法学会の学会誌に投稿することができた(現在審査中)。 また、Kemmer (1993) の中間態の研究からヒントを得て、本研究の成果が再帰構文全体まで応用できることがわかってきた。この研究成果を6月に開催されるSuzanne Kemmer、Michael Barlow両氏が参加するWorkshopにて発表する予定である。
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