本研究は異文化間の交渉を米国モダニズム文学の成立要件としてとらえて、モビリティと、そこから生じる異なる人種や文化同士の交渉や摩擦が、文学作品や作家の想像力をどのように形作ったかを考察することを目的としていた。従来は並べて読まれることのない白人と黒人のモダニズム期の作家の作品を比較検討したり、黒人人口の南部から北部への異動、またモダニズム作家たちのアメリカからヨーロッパへの移住など、1920年代から30年代にかけての、さまざまな移動/モビリティにまつわる事象と、その移動の中で生み出された文学・文化テクストを読み解くことを通して、モビリティと文化的表現の間にある強い結びつきを確認することができた。従来は白人男性中心の文学運動としてのモダニズム、黒人中心のハーレム・ルネサンスという風に別々の文脈において読まれてきた1920年代から40年代あたりまでのアメリカ文学の作品群を新たな概念のもとに再検討することにより、アメリカ文学史における新たな文学的系譜を創出することという、本研究の重要な意義のひとつも、十分に達成できたと考える。今回の研究プロジェクトの遂行にともなって、20世紀前半のアメリカにおけるモビリティに関する検証を行い同時代のテクストを幅広く読んだことにより、今回の研究だけでは終わらない今後数年間の新たな研究プロジェクトも派生的に立ち上がってきた。研究の成果はそうしたプロジェクトのひとつとして学会での研究発表にまとめ、今後の出版に向け書き直しているところである。
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