明治期歌舞伎の作品研究は、戦前に全集が刊行され多くの作品の翻刻が備わる河竹黙阿弥など東京の大劇場で活動した一部の作者の作品に偏りがちであった。本課題では残存する明治期の上演台本を基礎資料とし、特定の作者に限定するのではなく、明治期という時代全体の歌舞伎における上演作品の様相を明らかにすることを目指した。平成27年度は前年度に引き続き国内の諸機関における台本および番付等の周辺資料の調査を行うとともに、日本演劇学会、国際演劇学会(The International Federation for Theatre Research)など国内外の学会において研究成果の発表を行ったほか、『変貌する時代のなかの歌舞伎 幕末・明治期歌舞伎史』(単著、笠間書院、平成28年2月)、「黙阿弥と新歌舞伎のあいだ――「狭間」の作者たち」(神山彰編『交差する歌舞伎と新劇』森話社、平成28年2月)等、複数の研究成果物を刊行することができた。 これらは従来の研究において言及の少ない明治期の上方(特に大阪)劇壇や、東京における非主流派劇場における上演作品の特色等を指摘するとともに、同時代の最大の作者である黙阿弥やその門弟たちの作品や作風を相対化し、明治期歌舞伎をより広い視点から俯瞰するものである。また、明治期の上演台本の調査を通じて、現在の上演演目や演出に関する提言・指摘を行い得た点も、有意義であったと考える。 一方で、当初計画では明治期の歌舞伎台本の悉皆調査の成果を目録として公開することを目指したが、一部機関での調査の不備等があり、研究機関内での公開はならなかった。今後、追加調査および調査内容の整理を行い、引き続き公開を目指していきたい。
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