当初計画では、実際にSNSを立ち上げたり、既存のSNSから情報を拾いあげることで大規模なシェイクスピア受容に関する調査を実施できるか可能性を検討する予定であったが、既に研究の早い段階で観客のプライバシーに関する課題が多すぎることが判明した。当初計画に「観客の自由なファン活動を阻害する可能性があると判断した場合、応募者はその後の大規模な研究プロジェクトに移行することを断念する覚悟もできている」と記載したが、ファンの中にはSNSなどの情報を拾いあげることに対する抵抗感も見受けられ、大規模計画の実施には問題があるという結論に達した。 このため、本研究は二年目の序盤より、計画書に記載したSNSにおける観客の活動に関する事例研究に移行した。主に演劇祭や上演のハッシュタグを通して観客の感想などを分析する調査を行った。この結果、ツイッターハッシュタグの利用については演劇は他のイベントに比べると上演中のリアルタイムでのハッシュタグ利用が行われないため、ハッシュタグを活用しきれていないイベントがある一方、オレゴン・シェイクスピア・フェスティバルや2015年のベネディクト・カンバーバッチ主演の『ハムレット』の上演などにおいてはハッシュタグが効果的に活用されていることがわかった。 研究成果については、予備的な調査の結果をShakespeare Studies掲載の劇評、編著である『共感覚から見えるもの-アートと科学を彩る五巻の世界』に寄稿した論文「共感覚的演劇を求めて-『驚愕の谷』からシェイクスピアまで」、及び2016年3月にアメリカルネサンス学会で行った研究発表に部分的に盛り込んだ他、2016年夏の世界シェイクスピア学会で最終的な成果を発表し、コメントを受けて論文にまとめる予定である。
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