インド亜大陸北西部に位置するパンジャーブ地方から、カナダ・トロント市周辺へ移住した人々の生活および出身地との関係について調査を実施した。 パンジャーブ地方は、イギリス植民地支配からインドとパキスタンが分離独立した1947年以降、インド領パンジャーブとパキスタン領パンジャーブに領土が分断されたままである。現在、国境を越えた両パンジャーブ間の日常的な交流はみられない。しかしながら、現在でも同様の生活慣習を共有していることもあり、移住先ではインド・パキスタン移民のなかでも「同胞」的立場となりえるのがパンジャーブ移民である。 本研究では、インド出身のパンジャーブ移民とパキスタン出身のパンジャーブ移民が、移住先のどのような場面で遭遇し、どのような関係を築いているのかを明らかにするため、南アジア系移住者が増加するトロント市およびその近郊のなかでも、とくにパンジャーブ移民の増加が著しい地区を中心に、移民支援組織のプログラムやコミュニティ活動での参与観察、参加者へのインタビュー、コミュニティ・メディアについての資料収集及び調査をおこなった。また、移民と出身地社会との関係について明らかにするため、帰省や巡礼ツアーなどに関する調査及びインタビューも実施した。 本研究を通して、インド・パキスタン移民のなかでも文化的近似性の強いインド出身パンジャーブ移民とパキスタン出身パンジャーブ移民が、出身地ではほぼ不可能である相互交流をもち、分断されているパンジャーブ地方を越境的に捉え直す実践がなされていることが明らかになった。移民が発信する越境的なパンジャーブの姿は、国境線による領土範囲にもとづき文化的差異を認識させる国民国家の枠に留まらない文化の越境性を示しているといえる。
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