研究課題/領域番号 |
26884076
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研究機関 | 木更津工業高等専門学校 |
研究代表者 |
大貫 俊彦 木更津工業高等専門学校, その他部局等, 講師 (70738426)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 内田不知庵の西鶴観の変遷 / 明治期西鶴本の本文変容の実態 / 本文校訂と解釈 / 伏字と自己検閲 |
研究実績の概要 |
平成26年度における研究実績の概要として、研究成果および調査の報告を行う。まず研究成果の一件目だが、研究実施計画に記載した「明治20年代の西鶴の流行現象に関して、文芸批評家としての内田不知庵がどのように関わったのか」という問題について、先行研究を整理し、不知庵の西鶴評価の再検討を行った。その成果が、平成二十六年度冬季全国大学国語国文学会(平成26年11月9日於弘前大学)における「「師表」から「歴史」へ―明治20年代初頭における西鶴流行現象と内田不知庵」である。ここでは、これまで指摘されてきた西鶴批評の背景に、不知庵自身のなかで文学を論ずる枠組みが大きく変動していることを明らかにした。続いて二件目としては、平成27年3月28日に開催された第三回十九世紀文学研究会において、「内田不知庵と西鶴本の翻刻―武蔵屋叢書閣版井原西鶴翻刻出版の役割と意義について」という発表を行い、江戸期西鶴本の本文と明治期の活版による西鶴本の比較を行った また、明治期の西鶴本の受容状況、書入れや蔵書印を見るために、全国各地の図書館が所蔵する西鶴本を調査した。平成26年度は、東京近郊では早稲田大学中央図書館、国立国会図書館に定期的に調査に行った。また、遠方では11月7日に青森県立図書館にて、同図書館が所蔵する工藤文庫の調査を行い、明治期に刊行された西鶴本を閲覧、許可を得て書影を収めた。この調査の成果は、3月の研究発表で資料として使用した。さらに明治期の西鶴の復興を探るため、元禄期の井原西鶴の本がどのくらいの価格で流通したかを調査するために、12月26日から同28日まで、大阪府立中之島図書館に明治の古書書目『書籍月報』の揃いを閲覧しに行った。これにより古書価格の上昇とともに、活版の西鶴本が流通していく様子を知ることができた。同図書館では西鶴以外の活字翻刻に関する資料が残されており、それらもまとめて入手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題においては、研究実績の概要でも具体的な実績を述べたとおり、当初の計画通り順調に進展している。研究期間が二年間であるので、まずは研究を軌道に乗せるべく、成果の発表しやすい、学会における口頭発表を先行して行っている。研究の進度については、研究計画時におおよその資料の見通しを立てていたので、中心テーマについても変更や修正の必要もなく進んでおり、相応の成果も出ている。現在(平成27年5月時点)は、昨年の研究成果を見直し、論文化を進めていると同時に、今年度の研究計画と遂行の時期について、検討している段階である。もちろん、研究を進めていくにつれて、申請時には気付かなかった新たな知見、それに伴う新たな課題も見つかっている(具体的には、内田不知庵の西鶴観と他の同時代の作家における西鶴観の相違の再検証など)。それについては、本研究の申請時の研究計画の内容に関係する範囲で進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策についてであるが、申請時の研究計画に基づき、予定通り、研究計画の第三番目に挙げた、社会的観点から捉えた井原西鶴の流行現象について検討する。昨年度は、主に西鶴流行現象の「発信する側」に注目して研究を行ったが、今年度は、主に「受け手側」すなわち西鶴の流行現象の享受者たちに関心を向けて、両面から西鶴の流行の総体を把握する。具対的には、この文学現象の最前線に立ってこの動きを見ていた当時の知識人予備群(一例として、坪内逍遙のもとで学んでいた東京専門学校の学生など)が、どのようにこの現象を受け止め、また、活字化された西鶴本を受容し、この現象にコミットしたかについて調査を行う。また、そのほかにも明治期に特徴的な活字の西鶴本がどのように受容されたのかという問題や、流通の実態、読者の感想、新聞雑誌の同時代評や作家の日記などを精査することによって研究を進めていく予定である。 二年間という限られた期間での研究であるために、まずは、予定している研究の全体像を明らかにする方針を優先することは昨年度と変わらない。ただし、本年度は最終年度であるので、これまでの口頭発表における研究成果を論文としてまとめ、本研究課題である明治期の西鶴の流行現象を総体的に捉え直すという作業を年度末に向けて行い、その成果を順次公表していく。
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