本研究では、「渡来銭の流通が社会にどのような影響を与えたのか」を明らかにする。中世手形文書は、11世紀に切符系文書として登場し、12世紀末の渡来銭流入開始を経て、13世紀に替銭が登場し、渡来銭が一般化する14世紀初頭に割符が登場する。それぞれの時期ごとの中世手形文書の信用の源泉を比較すると、切符系文書が財政的制度に、預かり手形系文書が荘園領主の家政機関に支えられていたが、渡来銭受容が一般化した後の割符では、商人たちの商業的利益がその信用を支えるようになってきた。渡来銭の受容は日本社会における商業流通を活発化させたのである。
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