研究課題/領域番号 |
26885009
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
山本 容子 筑波大学, 人間系, 助教 (40738580)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 環境倫理 / 環境教育 / ディープ・エコロジー / 動物解放論 / 自然物の当事者適格 / 自然の権利 |
研究実績の概要 |
本研究では、生徒の環境倫理意識の育成を目指し、日本の学校の理科教育、特に生物教育における環境倫理の視点を導入した環境教育の理論と実践に関した基礎知見を得ることを主目的とし、その目的を達成するための方法として、(1)ディープ・エコロジー、動物解放論、自然物の当事者適格の視点を含んだ環境倫理教育の実践事例の文献調査・分析、(2)日本の小学生・中学生・高校生を対象とした環境倫理意識調査・分析、(3)日本の理科授業、生物授業に導入する環境倫理教育プログラムの開発・実践・分析を行うことを計画した。平成26年度は、このうち、(1)の文献調査をもとに、(2)の調査結果、(3)の実践結果の一部を分析した。 具体的には、まず、「自然の権利(自然物の当事者適格、動物解放論)」の文献調査をもとに、それらの視点を含んだ、高校生対象の環境倫理意識調査の結果を分析した。その分析により、高校生の「自然の権利」意識の特徴として、「法的な権利」に肯定的な生徒が多いのに対して、「倫理的な権利」に肯定的な生徒が少ないことが明らかになった。 次に、日本の高校の生物授業にディープ・エコロジーの視点を導入した環境倫理教育プログラムの実践結果を分析した。本プログラムの試行により得られた知見は、①高校「生物基礎」の生態分野の学習に,野外調査「校庭の草本類の植生調査」、ディープ・エコロジー・ワーク「身近な樹木との一体化体験」を導入することは,生徒の生態系の保全の重要性に対する意識、および、環境倫理意識の向上を図るのに有効であること、②生態分野に「身近な樹木との一体化体験」を導入することは、ディープ・エコロジーの中心概念である「自然との一体化による自己実現の達成」を図るための1つの有効な方法であること、の2点であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ディープ・エコロジー、動物解放論、自然物の当事者適格の視点を含んだ環境倫理教育の実践事例の文献調査については、ディープ・エコロジーの実践事例の内容調査は進んでいるが、動物解放論、自然物の当事者適格については、資料収集中であり、内容調査、分析ともに途中段階である。したがって、ディープ・エコロジーの文献調査はおおむね順調であり、動物解放論、自然物の当事者適格の文献調査はやや遅れている状況である。 日本の小学生・中学生・高校生を対象とした環境倫理意識調査・分析については、高校生対象の調査・分析は実施したが、小学生・中学生についてはまだ計画中である。したがって、高校生対象の調査はおおむね順調だが、小学生・中学生対象の調査は、やや遅れている状況である。 日本の理科授業、生物授業に導入する環境倫理教育プログラムの開発・実践・分析については、本年度は実施する予定ではなかったが、高校生物の授業において実施したディープ・エコロジーの視点を導入した環境倫理教育プログラムの分析まで実施することができた。したがって、プログラム開発・実践・分析については、当初の計画以上に進展している。 以上より、達成度を総合的に評価した結果、全体としておおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き、欧米を中心としたディープ・エコロジー教育の最新の実践事例、および、動物解放論、自然物の当事者適格の視点を含んだ環境倫理教育の議論、実践事例に関する文献、一次資料を入手し、その分析を行う。特に、動物解放論、自然物の当事者適格の視点を含んだ環境倫理教育に関する文献収集とその分析を重点的に行う。文献調査から得られた、ディープ・エコロジー、動物解放論、自然物の当事者適格の視点を含んだ環境倫理教育の実践的特質を相互比較することで、環境倫理教育の特質を鮮明化する。 また、環境倫理意識調査については、本年度実施した、動物解放論、自然物の当事者適格に関する高校生の意識調査の結果をもとに調査問題を改良し、小学校・中学校・高等学校の段階別、地域別の生徒の意識調査を行い、その結果を分析する。具体的には、今年度の調査結果の分析により明らかになった、「法的な権利に肯定的な生徒が多いのに対して、倫理的な権利に肯定的な生徒が少ない」という環境倫理意識の特徴について、そのような特徴が示された理由は何か、また、小学生・中学生でも同様な傾向がみられるのか、解明するための調査問題の改善、実施、分析を、今後行う。 そして、環境倫理教育プログラムの開発については、動物解放論、自然物の当事者適格の視点を導入した生物教育プログラムを開発し、生物教育において生徒の環境倫理意識を育成するための環境教育プログラムの理論と実践に関した基礎知見を得る。その際、本研究における児童・生徒への質問紙調査、および、環境教育プログラムの実践は、筑波大学人間系研究倫理委員会に諮り、その承認を得て行う。
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