研究課題/領域番号 |
26885012
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
鶴見 太郎 埼玉大学, 研究機構研究企画推進室, 准教授 (00735623)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | ロシア・ユダヤ史 / アイデンティティ / 帝国 / 相互依存 |
研究実績の概要 |
ロシア帝国において、ユダヤ人はロシアという文脈、状況のなかで、自らのアイデンティティを位置づけて暮らしていたが、帝国が崩壊したことによって、それがどのように変遷したのか。これが、本研究の仮説である。本年度は、その一例として、1920年代に、亡命先のパリでロシア語で週刊新聞を刊行していた自由主義系ユダヤ人に着目し、彼らの議論を分析していった。白軍と赤軍の間で繰り広げられた内戦において、白軍の側についたユダヤ人については一部の研究を除いてあまり注目されてこなかった。その一派が刊行していたのが今回用いた『エヴレイスカヤ・トリビュナ』紙である。本研究は、彼らがなぜ、今日では反ユダヤ主義において悪名高い白軍の側についたのかという観点から、彼らにとってのロシアの意味を探っていった。そこで着目したのが、本研究課題名にもある「相互依存的アイデンティティ」というアイデンティティのあり方である。彼らは、「後進的」なロシアにあって、西欧化の役割を担う存在、あるいは、ロシアの経済復興に貢献する経済力として、ユダヤ人をロシアに位置づけていた。ロシアにおいてこそ、ユダヤ人の特性を発揮できる、という捉え方である。今日ではほとんど忘れられているが、実はロシアの知識人のなかでも、また別の形ではあっても、ユダヤ人をロシアにとって欠かせない存在として描く者がいた。宗教思想家のソロヴィヨフやベルジャエフである。彼らはメシア思想を共有するユダヤ人は、ロシア人が千年王国を達成するうえで欠かせない存在であると考え、反ユダヤ主義に反対した。彼らについては、『エヴレイスカヤ・トリビュナ』でも好意的に言及されていた。以上について、自ら主催した国際会議Mediating East European History and Israeli Historyと、ワークショップ「〈間にあるもの〉の現代史」において発表した。2年目に、さらに発展した形で発表し、論文にまとめていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ユダヤ人の側に、ロシアに対してある種の思い入れがあることについてはすでにある程度分かっていたが、ロシア人の側のユダヤ観とある程度呼応する部分があることについて今回特に見出すことができたのは成果であった。一方、当初よりも史料消化が遅れている点では巻き返しが必要である。以上、プラスとマイナスを総合して、評価としては「おおむね順調」とした。
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今後の研究の推進方策 |
計画書の通り、『エヴレイスカヤ・トリビュナ』の分析を続けていく。8月に幕張で開催される国際中東欧学会などで発表を行い、批判を請いながら、論文として完成させていく。変更点は特にない。
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