昨年度の自由主義のロシア・ユダヤ人に関する研究に加え、ロシア・シオニストの言説への分析を開始した。具体的には、ベルリンで『ラスヴェト』誌を再開したロシア・シオニストが、ロシアに対して何を語っているかに注目した。自由主義者は革命後の混乱ゆえの国家機構の麻痺が、ポグロムを抑止できない原因であると考え、ロシア国家の再興が何より重要であると考えていたのに対して、シオニストは、ポグロムはロシア人の反ユダヤ主義の発露であるとして、ロシアに対する不信感を表明していた。このことが、シオニスト界隈において、ロシアとの具体的なつながりをユダヤ人の側から絶つ契機になったことが伺われた。ポグロムという暴力への捉え方の違いが、その後の進路を決定した部分があったのである。それは、相互依存的アイデンティティが壊れていく重要な契機でもあり、ユダヤ的アイデンティティが孤立化していった背景だった。 途中経過として、7月に北大スラブ・ユーラシア研究センター、8月に国際中東欧研究会議において、ロシア・ユダヤ人の二重ナショナリズムについて報告を行った。また、関連する論文がユダヤ史の権威ある国際誌に掲載された。
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