研究課題/領域番号 |
26885013
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
佐藤 輝幸 千葉大学, 法政経学部, 特任助教 (50733185)
|
研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
|
キーワード | 刑事法 / 公共危険犯 / 放火罪 / 往来危険罪 |
研究実績の概要 |
今年度の研究では,本研究の目的である放火罪及び往来危険罪の公共危険犯としての意義についての個別的検討のうち,主に放火罪について我が国の議論の現状及び歴史的検討を行い,「公共危険犯としての放火罪(1),(2)」を執筆した(法協132巻5号及び6号(2015)に掲載予定である)。 以上の研究から,我が国の現在の学説は,放火罪の公共危険犯としての固有の性質を詳しく分析しておらず,また,性質論から各要件の解釈論を展開することもほとんど行っていないため,議論が膠着状態に陥っていることが明らかとなった。これに対して,大審院判例や旧刑法以前の起草過程及び運用においては,放火罪の公共危険犯ないし公益に対する罪としての性質を重視し,解釈論を展開しているものも見られた。そこで,そのような議論を沿革的に位置付け直した上で,現在の視点から分析し直すことで,現在の放火罪の議論に対して,新たな視点を提示できるのではないかという見通しを得ることができた。 今後は,ドイツ,オーストリア及びスイスの各国の放火罪について,比較法的検討を行った上で,放火罪における公共危険犯としての性質の意義及びそこから導かれる解釈論的帰結について,自説を展開すること(「公共危険犯としての放火罪(3)~(5・完)」法協132巻11号,12号(2015),133巻4号(2016)として公刊する予定である),及び往来危険罪について歴史的検討を行う予定である。その上で,放火罪と往来危険罪を対比することで,公共危険犯の理論の再構築及び体系化を図ることを最終的な目標としている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
応募当初の研究計画では,先に往来危険罪を研究する予定であったが,論文掲載時期が早まったため,放火罪の研究を先に行うことが必要となった。 そのため,往来危険罪については,基本文献の収集に留まり,その内容の分析等には,ほとんど取りかかることができなかった。 他方で,放火罪については,既に我が国の議論状況の分析及び歴史的検討を完了しており,「公共危険犯としての放火罪(1),(2)」としてまとめることができた(法協132巻5号及び6号(2015)に掲載予定である)。また,ドイツ,オーストリア及びスイスに関する比較法的検討についても,既に資料の収集はほぼ完了しており,論文としてまとめる準備はほぼ整えることができた。したがって,往来危険罪との対比ができなかった点など,部分的には不満が残るものの,応募当初の研究計画の予定以上に研究が進んでおり,おおむね交付申請時の計画に沿って研究できていると考えている。 なお,研究計画では,海外での資料収集を行う予定であったが,手術のため行うことができなかった。しかし,その分論文執筆をはじめとする,それ以外の研究の進展で埋め合わせることができたものと考えている。 以上より,放火罪の研究については,応募当初の計画より進展しているが,往来危険罪については調査が遅れている。しかし,既に研究順序の変更の必要性が明らかになっていた交付申請時の計画からすれば,ほぼ予定通りである。したがって,これらを総合すると,当初計画の研究順序とは異なるものの,2年間分の当初計画全体の半分程度,すなわち,おおむね1年間分に相当する研究が進んでいるものと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は,放火罪については,ドイツ,オーストリア及びスイスの各国の比較法的検討を行い,本年度の成果である我が国の放火罪の現状及び歴史的検討と併せて,放火罪固有の公共危険犯的性質に着目して放火罪の性質論及び解釈論について私見を展開し,論文化することを目的とする(比較法的検討及び私見に関しては,「公共危険犯としての放火罪(3)~(5・完)」法協132巻11号,12号(2015),133巻4号(2016)として公刊する予定である)。 放火罪についての論文の執筆時期が当初の予定より早まったため,往来危険罪については全ての研究を次年度中に行うことは難しい。まずは,現在収集した基本文献を分析するとともに,そこから得られた情報を下に,さらに文献の収集を行う予定である。その上で,2016年1月以降から,我が国の往来危険罪の歴史的検討を行うとともに,旧刑法起草時に参照されたドイツ及びベルギーの往来危険罪についても調査し,往来危険罪の沿革的研究を行い,論文を執筆することを次年度の目的としたい。また,ドイツ及びベルギーのその後の発展も含めた比較法的検討については,沿革的研究の後に,分析及び論文執筆にとりかかれるよう,準備を開始したい。 以上の研究を踏まえ,放火罪及び往来危険罪の公共危険犯的意義を対比し,公共危険犯の理論について再構築して,体系化を目指す。その成果をとりまとめて,2016年度以降の日本刑法学会において,公共危険犯論についての個別報告を行うことを目標とする。
|