研究実績の概要 |
本研究では下記①,②を目的に実施している. ①高齢者のうつ症状に関連する心理・社会的決定要因を男女別・教育歴別・都市規模別・等価所得別およびソーシャル・キャピタルの豊かさ別に明らかにする. ②高齢者のうつ症状からのリカバリー率およびリカバリー要因を男女別・教育歴別・都市規模別・等価所得別およびソーシャル・キャピタルの豊かさ別に明らかにする. 2014年度は既存の国内外の調査研究のレビューを行い,日本老年学的評価研究(Japan Gerontological Evaluation Study,JAGES)プロジェクトによって収集されたデータのクリーニングを行った.具体的には,2010年8月から2012年1月にかけて全国31自治体に居住する要介護認定を受けていない高齢者112,123人から,身体,心理,社会的な状況について得たデータ (2010年度調査)を起点に,2013年度の追跡データ(2013年度調査)を結合した.2010年度および2013年度いずれにも調査協力が得られ,なおかつデータリンクのためのキーとなる暗号化された被保険者番号についての同意の得られた24市町村のデータを結合し,クリーニング作業を行った.また,このクリーニング作業と同時進行で,2013年度データを用いて,上記①の目的に対し個人回答を市町村単位に変換可能であった全国29市町村データを用いて,横断的に地域レベルでの検証を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ソーシャル・キャピタルの豊かさの指標として,社会的サポートや周囲との関わりに着目し,目的①を主に検証し,おおむね予定通りに分析を進めることができた.具体的には 社会的サポートの享受について「心配事や愚痴を聞いてもらう人がいる」割合が高い地域はうつ傾向が低かった.男性高齢者(β=-.52, p<.01),女性高齢者(β=-.60, p<.01)のいずれでも有意となった.同様に,「病気で寝込んだ時に,世話や看病をしてくれる人がいる」と認識している割合が高い地域は,うつ傾向が低く,女性高齢者(β=-.68, p<.01)では有意となった. 社会的サポートの提供についても「心配事や愚痴を聞いてあげる人がいる」割合が高い地域はうつ傾向が低く,男性高齢者(β=-.41, p<.05),女性高齢者(β=-.55, p<.01)のいずれでも有意となった.「世話や看病をしてあげる人がいる」と認識している割合が高い地域でもうつ傾向が低く,女性高齢者(β=-.40, p<.05)では有意となった. 個人レベルで示されたうつ傾向との関連(Koizumi et al., 2005; 増地あゆみ & 岸玲子, 2001; 村田千代栄 et al., 2011)が地域レベルでも同様であることを示した.サポートの受領のみならず,提供も,高齢者のうつ傾向の地域診断指標に適していることを示唆する結果を得ることができており,今年度はおおむね計画通り,順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
うつと周囲からサポートについて,更に,相手別社会的サポートの関連を明らかにすることで,誰との社会的サポート授受の豊かさが高齢者のうつ傾向の地域診断に適した指標となり得るかを検証する.特に,高齢世帯における単独世帯の割合は増加傾向であり,2035年までには46都道府県で30%以上,9都道府県で40%以上になることが見込まれていることから(国立社会保障・人口問題研究所, 2014),家族などの同居以外の人々からのサポートとうつの関連を中心に検証し,地域でのうつ予防・支援に向けた手掛かりを得る. 更に,2014年度に作成が完了した縦断データを用いて,上記②の目的に対しての検証を行う.縦断データを用いることで,影響経路を遡り「原因の原因」に迫る分析を行い「見かけ上の関連」や「逆の因果関係」の除外する. うつ予防やリカバリーに向けた地域づくりを戦略的に進めるための科学的根拠を提示する上で,6万人規模の多地域パネルデータを活用し,個人レベル要因のみならず地域要因の影響を考慮した分析を行っていく.
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