平成26年度は、熟議民主主義に基づく教育理論及びクリティカル・ペダゴジーにおける情念の扱いを検討した。熟議民主主義に基づく教育理論については、エイミー・ガットマンやアイリス・マリオン・ヤングらの著作を検討し、それらが情念に対して一定の意味を認めていることを確認した。とりわけヤングの論は、挨拶、レトリック、ナラティブといった概念を提示することで、情念を熟議と関連づける点において重要であることが分かった。同時に、熟議民主主義に基づく教育理論はあくまでも熟議を優先するため、理性的な語り以外の情念を用いた表現手段は補助的な役割にとどまることが明らかになった。 クリティカル・ペダゴジーの理論については、ヘンリー・ジルーの著作を中心に検討した。その結果、クリティカル・ペダゴジーの理論研究において情念は重視されているものの、その役割が十分に明確になっていないことが問題として浮かび上がった。 その一方、とりわけアートを用いたクリティカル・ペダゴジーの実践において、情念が独自の役割を果たしていることを発見した。これらの実践事例を検討した結果、クリティカル・ペダゴジーにおいて、①情念は不同意や批判的な態度を理性的な語り以外で他者に伝えたり、人々の理性的思考の方法を変え、それによって新たな対話を促したりしていること、②これらの役割は、理性的な語りを頂点とするヒエラルキーには回収されないことの2点を析出できた。 研究成果については、クリティカル・ペダゴジーの実践と情念との関係を中心的に扱ったものを日本デューイ学会で発表し、論文を執筆した(学会誌に掲載決定)。加えて、チャップマン大学(アメリカ)を訪問し、クリティカル・ペダゴジーに関する資料収集を行うとともに、複数の研究者との討論を通して理論研究の最新の動向に関する知見を得た。
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