研究課題
研究計画に基づき、平成26年度に実施した研究の成果は以下の2点である。(1)版画による絵画の複製についての検討まず、書籍の翻刻出版の違法性に関する検討が主軸であった18世紀後半~19世紀初頭ドイツの諸学説において、絵画の版画による複製にどのような評価を与えていたのかについて検討した。そこで、書籍とは異なり、版画による複製においては、版を作るにあたり複製対象となる絵の模写や彫刻作業が発生し、複製者独自の作業が介在することから、書籍の翻刻とは異なるものとして捉えられていたことを明らかにした。次に、約30年後、ドイツで最初の近代的な著作権法と称されるプロイセンの著作権法を検討した。版画による絵画の複製を違法とする規定が盛り込まれたことについて、この間、画家をめぐる社会状況の変化や複製手段の多様化が生じ、それらを受け立法者や学説において解釈の修正や拡張がなされたことを確認した。(2)書籍の複製と、版画・写真による絵画の複製との関係に関する検討まず、プロイセンの著作権法の各規定において、絵画の複製は書籍の複製と完全に同一視されていたわけではなく、(1)において検討されたような版画独自の作業を一定程度評価していたことを確認した。その後1839年に登場し急速に普及した写真と版画との関係について、1850年代から70年代の学説や判例、立法過程を検討し、写真を機械的な複製手段として版画と異なる位置づけがなされたことを明らかにした。また、保護すべき作品の要件(性質)に関する議論と、版画・写真との関係を検討し、複製手段としての版画・写真に関する議論が作品要件にも影響して、版画と比べて写真がその機械的性質により保護すべき作品として捉えられていなかったことを指摘した。
2: おおむね順調に進展している
本研究は19世紀のドイツを中心とした諸外国において、作者の個性の表出に着目する「創作性」概念が形成された経緯を明らかにすることを試みるものである。平成24年度は、著作権法内部での「創作性」概念に関する諸要件を検討するものとして、主に18世紀後半から1870年代までの文献資料を主として検討を行った。1880年代以降の文献資料についての検討は、主要な学説を中心に全体像を掴む検討作業が順調に進んでいる。ドイツでのみ入手可能な史料も含めた詳細な検討については来年度への持ち越しとするが、おおむね順調に進展しているということができると考える。
平成27年度は前年度に引き続いて文献収集と検討を行う。特に立法関係資料など国内では収集できない公文書類や日本にない文献について、夏期休暇を利用してドイツのミュンヘンおよびベルリンの公文書館や図書館を訪問し、文献収集を行う予定である。また、ミュンヘンではマックス・プランク知的財産法・競争法・租税法研究所の図書室にある知的財産法関係の資料を収集するとともに、研究所に所属する研究者と当該テーマに関する議論を行う予定である。
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