研究課題/領域番号 |
26885017
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
森川 想 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10736226)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | スリランカ / 国際情報交換 |
研究実績の概要 |
本研究は、(a)スリランカの高速道路建設に伴う住民移転という具体的な政策・制度の実証的な分析を通じて、政策認識と負担行動の関係に関するミクロダイナミクスについてのデータと知見を得るとともに、(b)既存のモデルとの整合性に関する検討を行うものである。 本研究は、(a)スリランカ事例調査をその中心とするものであるが、これまでの研究成果の洗練とその成果発表が新たな作業を開始する前提となるため、(b)モデルと実証の接続の作業が(a)に先行して進められる。このため、本年度は、(b)モデルと実証の接続とその成果の公表、および(a)スリランカ事例調査の準備に重点を置いて研究を行った。 具体的には、(b)についてシミュレーションによる分析の結果を2015年1月に中国・西安で開催された国際行政学会で報告を行った。公共目的の負担が広く受容されている秩序の裏に隠された人々の認識の様態には様々な可能性があり、持続が容易な秩序とショックに脆弱な秩序が存在するという理論的含意は、様々な国における政策的分野に当てはまることが議論された。このほか、2015年2月に東京大学駒場キャンパスにて開催された国際ワークショップ”Multi-Agent Simulation (MAS) and Global Issues”においても発表を行い、国内外のシミュレーション研究者との意見交換を行っている。(a)については、現地調査の協力者であるスリランカの大学教授を研究室に招聘し、当該事業の道路開通後の状況と、次の高速道路事業への影響やその状況について新たな情報を得るとともに、来年度の調査の準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画の予定通り、本年度は、本研究の理論的な枠組みとなる、ミクロな行動モデルに基づいたシミュレーションによる分析結果の公表と、本研究の中心的な課題となるスリランカ現地調査の準備を行うことができた。 実証分析の前提となる理論分析の結果を二つの会合において公表し、様々な分野からの研究者と意見交換を行ったのは、モデルに基づくシミュレーションが、ミクロな行動原理からマクロな社会のダイナミクスを分析するうえで有用なツールである一方で、その知見が必ずしも常に現実を再現するものになるとは限らず、それゆえに常に実証研究者との議論の場を通じて、モデルの妥当性について批判的な論評を受けることが必要となるためであった。二つの会合を通じて、様々な国における政策的背景を考慮したコメントや、異なる学問分野から見たときの意見などを得ることができたが、一方で報告時間の制約もあり、引き続き議論が必要であると考えている。 スリランカ現地調査の準備においては、協力者と本研究が対象とするプロジェクトに関する情報の更新と打ち合わせを行うことができたのみならず、今後の比較すべきプロジェクト、および最新のデータ蓄積を踏まえた分析方法などについても議論を行うことができた。特に移転住民の地理情報データの取得状況には目覚ましい進展があり、今後、このデータを分析に活用していくことを考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2015年度は、本格的な現地調査を実施するとともに、本研究の中心的な部分となる、スリランカの高速道路建設に伴う住民移転という具体的な政策・制度の実証的な分析を行う。すなわち、道路建設に伴い移転を強いられた住民の事業後(開通後)の認識についての調査を実施し、すでに実施した調査結果と比較しつつ、その継時的な変化を追う。なお、前提となるすでに実施した調査の分析結果の報告を、7月に米国ウィスコンシン州・ミルウォーキーで開催されるアメリカ行政学会中西部部会で報告することが決定しているほか、土木学会論文集F4および英文誌への論文投稿を予定している。 なお、スリランカにおいて新規の高速道路建設計画が進行中であり、その実施形態は援助主体や事業主体の点において、これまで研究してきた事業とは性質の異なるものでありながら、過去の事業におおける教訓を生かした制度設計となっているものであることから、二つの事業における移転住民に対する政策的対応や、それらに関する人々の認識の相違などについても可能であれば調査をしたいと考えている。また、今回のプロジェクトにおいては、地理情報データの取得など、非常にきめ細かいデータの取得が事業主体の手によってなされており、これらのデータを入手して分析することも可能であると考えている。 なお、フィールド調査は、実施してはじめて作業仮説の検証が難しいことが判明するなどの困難もあると考えられるが、前年度の成果も踏まえ、モデル分析や他の政策領域におけるデータ分析といったほかのアプローチからの結果との相互参照に努める。したがって、社会的要因やネットワークへの着目という主題は基本的に維持するものの、常にほかのアプローチから得られた成果との照合を行って、場合によっては新しいモデル分析を行い、フィールド調査から得られたデータが適切に仮説検証に活かされるよう、研究デザインを構築・改訂する。
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