本研究は高速道路建設に伴う住民移転に関する住民の認識を実証的な分析することで、より一般に公共目的で実施される事業や政策に対する認識と、それに伴う負担に関する認識の関係を明らかにするものである。 今年度は、昨年度スリランカの研究協力者とともに作成した高速道路事業のケースを基に教育・研究を実施した。第一に、昨年度は2010年から2011年にかけて実施した調査データの実証分析を行った結果を論文として取りまとめる作業を行った。第二に、研究協力者を招聘して事例調査に向けての準備作業や議論を行ったうえで、本年度は、(1)土地に対する愛着や生活再建のためのモチベーションの高低と、移転先での社会ネットワークの様態や生活の満足度の関係、(2)旧道沿線住民に対する経済・社会的影響の二点について取り扱うこととし、調査票の設計を行った。 以上の準備の下、一か月程度のフィールド調査を実施し、前回調査時に訪問した家計を含む計100家計程度のデータを収集した。今後は、新たに質問した住民間のネットワークや土地への愛着、生活再建のためのモチベーションといった変数が他の変数とどのような関係を持っているかについて検討を進めたい。 特に、回顧的に評価した時の各段階(事業を知ったとき、移転前、移転後、現在)における事業や移転、補償に対する認識が、五年後の現在どのように変化しているのか、また、各家計の社会経済的な状態に応じてどのように変化すると考えられるのかについてはまだ十分な検討ができていない。今回の調査結果の分析と合わせて、定期的に調査を実施し、移転住民の適応過程を明らかにしていきたい。また、現在、スリランカにおいては新規の高速道路建設計画が進行中であり、今回の調査でその準備にかかる議論も研究協力者と行うことができた。今後は、本研究が対象とした南部高速道路事業とそれ以外の高速道路事業との比較も視野に入れて研究を進める。
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