本研究課題では、企業という組織レベルの要因を1つの社会制度と見なし、それを労働市場における社会的地位の格差の生成メカニズムとみなした実証的な検討を行うことを目的としてきた。前年度には、(1)文献の収集レビュー、(2)分析モデルの検討、(3)基礎的な知見の成果報告を行ってきた。 平成27年度は前年度の研究を踏まえ、課題の遂行を進めてきた。特に本年度は研究課題期間の最終年度であることを踏まえ、分析の精緻化および成果発表を中心に行った。具体的には、(1)企業内における訓練と技能形成の違いを通じて人々の間にどのように異なる不平等が生まれるか、(2)企業規模が日本社会において、人々の所得の安定性にどのように影響しているかを明らかにする分析を進めてきた。 (1)については、企業内において人々が身につけた訓練が蓄積する影響に注目した。訓練の効果は一時的かつ即時的なものではなく、内部労働市場を通じて時間的に蓄積しうる。これが企業規模と相互作用を持ち、異なる不平等を生み出すことを明らかにした。この成果は、東京大学で行われたパネルデータ分析の報告会などで発表をした。 (2)については、同一の社会的属性を持つ人々の間における内部の収入格差に注目することで、企業規模と安定的な働き方の関係を分析した。大企業・官公庁で働く人々は、平均的な収入が高いだけではなく、その内部における格差も小さいことを、グループ内の分散に注目するモデルによって明らかにした。この成果としては、「社会的属性と収入の不安定性─グループ内の不平等に注目した分析」と題する論文を、数理社会学会の学会誌に発表した。
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