平成27年度は、量刑分布グラフのアンカリング効果について、評議過程をも含めた実証的研究を行った。量刑分布グラフとは、類似の刑事事件でその被告人にどのような刑罰が科されたかをグラフで示したものであり、経験が乏しい裁判員にとっては重要な判断材料となる。一方、アンカリング効果とは、たとえばある商品の売値が「元値1000円のところを500円」として表示されていると(元値が表示されていない場合に比べ)安価に感じるなど、アンカーとなる数値を示すことで判断が影響を受けるという心理現象を指す。 綿村らの先行研究によれば(綿村他,2014)、裁判員の判断は、量刑分布グラフの最頻値、すなわちグラフのピークに収束する。本研究では、この先行研究をふまえ、量刑分布グラフのアンカリング効果が、①グラフの最頻値の尖度・上限・下限など、各数値を操作することでその影響が異なる、②検察官からの求刑という別のアンカーと調整される、という2つの仮説について実験的検証を行った。 実験では、裁判員裁判にも前年度に作成した材料を効果的に用いることで、データ数は少ないものの、実際の裁判にかなり近似した状況下で、裁判員の判断をシミュレーションすることができた。一連の研究から、上記②の仮説については概ね支持されたものの、①の仮説については、予備調査の結果から、本研究計画を実施するにあたってパラメータの調整が別途必要になったため、まだ遂行中である。
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