本年度は、研究主題である「物体表象の形成と維持」に関し、「物体が重複して提示された際にそれらの表象は脳内でどのように保持されるか」を検討するための事象関連電位(ERP)実験を行い(研究1)、また物体表象維持の基本メカニズムとして考えられるワーキングメモリの機序解明を目指す行動実験を行った(研究2)。 まず研究1では、リンゴやバナナなどの絵をコンピュータ画面上に呈示してそれらの特徴を記憶させるワーキングメモリ課題を行い、表象保持中のERP成分(CDA)を測定した。実験条件としては、1つだけ物体が呈示される場合、2つ物体が離れて呈示される場合、2つ物体が重複して呈示される場合を設けた。重複して提示された物体が脳内でも重複したまままるで1つの物体として保持される場合には、1つだけ物体を提示した場合と同じCDA振幅をとり、もし脳内で分離されて保持される場合には2つの物体を話して呈示させた場合と同じCDA振幅をとると予測された。しかしながら結果は予測に反し、重複した条件では、その他の条件よりもCDA振幅が大きくなった。この結果は、重複した物体を記憶する際にはより注意を使う必要があることを意味し、よってその表象は脳内でも重複したまま保持されていることを示唆するが、その検討にはさらなる実験が必要である。 また研究2では、視覚情報のワーキングメモリが、視覚特徴ごとにことなる保持容量をもつかどうか実験を行った。同じく視覚情報である色と傾きを同時に記憶させる二重課題を用い、課題順序、課題の構造などを変化させて網羅的に検討した。その結果、同じ視覚特徴であってもそれらの保持容量が独立していることが示唆された。この結果は、呈示された物体の視覚情報がどのように保持されるのかを解明するうえで、重要な礎になると考えられる。
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