本年度はインド各州の私立学校に対する統制方針および無認可の低額私立(Low-fee private[LFP])学校の支援・推進ネットワークに関する最新動向を確認するため、昨年度に引き続きウェブサイト、新聞記事、学術書・学術論文、現地調査を通じて情報収集をおこなった。インドでは2010年に無認可学校の閉鎖を命じる「無償義務教育に関する子どもの権利法」が施行されたが、今年度の調査では州政府の統制方針が無認可学校の存続に影響を与えた新たな事例は確認されず、調査対象州においてこれらの学校が正規化されるのかあるいは消滅するのかは現時点では判断できない状況にある(昨年度は、州政府の統制方針によって一度閉鎖された学校が、1週間後には再開するという事例が確認された)。一方現場レベルでは、公立学校よりも質の高い教育を低コストで提供するLFP学校に賛同し、これらの学校の支援活動を拡大するアクターの活躍が目立った。現地調査では、調査研究、資金提供、政策提言等を通じてLFP学校を支援するセントラルスクウェア財団、ピアソンアフォーダブルラーニング基金等について情報を収集した。これらのアクターは、政府主導の教育普及の効率性に疑問を抱き、教育の質と成果の向上を目標としており、様々なメディアを通じてLFP学校の存在意義を社会に訴え、国境を超える LFP学校支援ネットワークを形成していた。LFP学校やその支援ネットワークは、政府主導の教育普及の問題が指摘されるアフリカ諸国にも拡大している。本研究は、こうした途上諸国の初等教育において、民間の教育提供主体が果たす役割とその発展の可能性を示す研究であり、途上国の教育の政策立案や制度構築にかかわる関係者に対して重要な示唆を提供すると考える。本研究の成果は、「公教育を支える『影の制度』と脱国家的な支持ネットワークの展開」と題する論文として2016年に発表予定である。
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