研究課題/領域番号 |
26885024
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
古壕 典洋 東京大学, 教育学研究科(研究院), 助教 (50735644)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | へだたり / 通信養育 / 真正 |
研究実績の概要 |
本研究では、〈へだたり〉を社会通信教育における知と主体との関係において三期に分けて捉えることで、戦後日本の社会通信教育の変容過程と機能を総体として考察し、文字言語による学びのあり方に検討を加える。具体的には、〈へだたり〉の誕生期(戦後直後~50年代)、〈へだたり〉の展開期(60~70年代)、〈へだたり〉の終焉期(80~ゼロ年代)に分け、そこでの学びの動態を「読み書きという教育的実践そのものが自己探求である」とする社会通信教育の信念との関係で捉えようとする。 今年度は、展開期に焦点を当て、以下の成果が得られた。 展開期における学びは、第一に、「働く私が(真正性の次元)/求められる学習内容を学び(客観性の次元)/喜びと忍耐を語る(社会性の次元)」と表現されたが、真正性の次元(生活感情)か客観性の次元(正しい知識)のいずれかが強調されることで、他要素との整合が崩れることとなったこと。第二に、こうした背後には、読み書きという教育的実践を客観性の次元で推し進めれば真正性の次元が失われ、真正性の次元で推し進めれば客観性の次元が失われていくという、学習者を取り巻く社会的かつ教育的な条件の変化があったことである。 以上の2点が研究実績として挙げられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
メディア受容者の意識的・無意識的視点から見た、社会通信教育の知の変質と学びにおける整合性の崩れとの関係を、一次資料に当たり、そこで措定された教育者像と学習者像に基づきながら、〈へだたり〉の解釈の多義性をある程度記述することができた。 以上の作業によって、メディアが受容される場での知の読み替えの様子の一端を考察することができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、特に終焉期を中心に研究を進めていく。社会が成熟し差異やコードを消費する価値多元的社会における社会通信教育は、文脈依存的で身体感覚に根ざした言わば「ローカルな知」(趣味、環境問題、地域づくり)をあらゆる人びとへ提供することで、地域活動を通しての自己の再構築を志向している。しかし、この時代はテクノロジーの成熟や主体の複数化が叫ばれ、〈へだたり〉の終焉が語られる時代でもある。無数の学習方法や機会が存在するなかで、文字によるコミュニケーションの教育的意義が薄れ、社会通信教育が自身の存在意義を見出せずにいる状況下での、知と主体との関係、文字言語によるコミュニケーションの意義を考えていく。
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