研究課題/領域番号 |
26885026
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
目黒 紀夫 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 研究員 (90735656)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 野生動物保全 / 環境統治性 / 動物愛護 / コミュニティ主体の保全 / アフリカ / マサイ |
研究実績の概要 |
本年度は12月と2~3月の2回に分けてフィールド調査を行った。12月の調査では2年に1度、調査対象地であるアンボセリ地域を挙げて開催されるマサイ・オリンピックについて、当日の様子を観察・記録するとともに関係者への聞き取りを行った。また、2~3月の調査では本研究の主要な調査対象であるオリーブ・ブランチ・ミッションの調査助手に聞き取りを行ったほか、マサイ・オリンピックをテーマとするシンポジウムを首都ナイロビで行い、マサイの青年リーダーを招待して講演をしてもらった。これらを通じて、マサイ・オリンピックを主催する動物愛護系のNGOならびに、その援助・教育を受けてきたマサイの若い世代が、野生動物保全・マサイ社会について動物愛護の描く理想に沿う価値観を形成していることを把握した。つまり、マサイ・オリンピックをめぐる調査からは、歴史的にマサイが野生動物を狩猟する理由としては、男らしさを示すことだけでなく人びとや家畜を襲う危険な種類を追い払う目的があったのだが、後者の理由は等閑視されて、あたかもかつてのマサイの青年は暇だから狩猟にかまけいていたかのように語られていた。そしてまた、オリーブ・ブランチ・ミッションの調査助手への聞き取りからは、そうした理解は、政府やNGOによる「コミュニティ主体の保全」だけによるのではなく、学校教育を通じても再生産されていることが明らかになった。これらの調査結果の一部は、今年度に行った先行研究のレビューも踏まえて、「野生生物と社会」学会第20回大会や東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所フィールドネットラウンジ企画ワークショップなどで報告し、議論を重ねてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2014年のケニアは、イスラム原理主義組織によるテロの危険性や西アフリカにおけるエボラ出血熱の発生にともなって、予期せぬ形で外国人観光客数の訪問者数を大きく減らした。その影響は本研究の調査地であるアンボセリ地域も及び、その結果として、本研究の調査対象であるオリーブ・ブランチ・ミッションも従来の観光開発計画の修正を余儀なくされていた。この結果、今年度に計画していた調査項目の一部(NGOで働く地元住民の「地の適用」)は放棄せざるを得ない状況になった。ただし、それ以外に計画をしていた調査項目については順調に情報を収集できているうえ、2年に1度、1日だけ開催されるマサイ・オリンピックの参与観察を行うことができただけでなく、マサイの青年リーダーをゲスト・スピーカーに招いてマサイ・オリンピックについてのシンポジウムを開催することもできた。その場では、研究者や大学教員、学生、NGO職員、それにアンボセリ地域のマサイの長老も交えて、現在のマサイ社会における野生動物保全のあり方を議論することができた。これによって、当初の計画以上に知の生産・流通・適用について詳しい情報を得ることができただけでなく、調査地のマサイの人びとのあいだの意見の違い、ならびにマサイ以外の人びとがマサイをどのように眼差しているのかについても情報を集められた。これらの点で、当初の計画とは異なるものの、動物愛護の影響を色濃く受けたケニアの野生動物保全をめぐる知の連関について、充分な質・量の情報を収集できたと考える。また、学会発表や学術論文などの成果も一定程度出せており、全体としてはおおむね順調に進展していると自己評価をしている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の調査で得られたデータのうち、特には2~3月の調査で集めたものについては整理・分析がまだ充分に行えていない。今後は、まず第一にその分析を進めるとともに、これまでの学会などにおける議論を踏まえて、事例についてのより詳細な分析と、環境社会学や開発学、科学技術社会論の先行研究レビューを通じた理論的な議論を進めていく。それぞれにかんして学会発表を行い、そのうえで論文として学術ジャーナルに投稿する計画である。これによって、本研究の5つの調査項目のうち知の適用にかかわる3つについて研究成果としてまとめるつもりであるが、残りの2つについては、当初の計画にならってさらなるフィールド調査から情報収集・分析を行うつもりである。そのさいには、国内学会だけでなくアフリカ研究の国際学会にも参加して発表することで、ケニアの「コミュニティ主体の保全」をめぐる環境統治の全体についてより精緻な議論を展開できるようにする計画である。
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