前年度では、ゲーム理論の枠組みを用いて、伝達可能なメッセージの数が2つである状況に限定して、組織のメンバーがお互いにメッセージを複数回伝達し合うチープトークモデルを作成した。今年度は、当初の研究計画に従い、主にこのモデルを用いて、お互いにメッセージを観察できる場合とできない場合を比較することで、コミュニケーションが双方向的であるときと一方向的である場合のそれぞれにおいて伝達可能な情報量について理論分析を行った。 分析によって導き出された主要な結果は、①分権制を採用している組織で、かつ組織内のメンバーのインセンティブのバイアスが大きい場合、メッセージを観察可能にすることでより多くの情報が伝達可能になる、というものである。この結果の含意は、部門間のセクショナリズムが強い分権的な組織においては、双方向的なコミュニケーションを促すことが有益であるというものである。また、上記とはやや異なるモデル設定を用いたものであるが、②交互に情報伝達を行う場合、先にメッセージを伝達するメンバーは一切情報を伝達しないほうが、後にメッセージを伝達するメンバーからより正確な情報を引き出せる、という分析結果を得た。 また、Summer Workshop on Economic Theory(小樽商科大学)およびContract Theory Workshop(関西学院大学)において研究成果の報告を行い、研究のブラッシュアップを行った。 研究成果の②は、研究代表者が執筆した”A Good Listener and a Bad Listener”の1セクションとして取り入れて、海外の学術雑誌に投稿した。研究成果①を含む残りの研究成果については、現在論文への取り纏めを行うなど投稿の準備を進めている。
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