研究実績の概要 |
類人猿を対象として比較認知・感情研究の研究を行った。 アイ・トラッキング技術を用いて、エピソード記憶(一回きりの出来事に対する記憶)に基づく類人猿の予測的な注視について実験を行った。具体的には、類人猿が一日前に見た動画の中の印象的な出来事に対して、その動画を二度目に見たとき、その出来事の起こる場所(「どこ」)とその出来事の起こる対象(「何」)を予測的に(出来事が生じる前に)見ることを発見した。この発見の意義は、ヒト以外の動物であっても、一回きりの出来事に対する長期記憶を自発的に形成できることを示した点である。これらの成果はCurrent Biologyに報告され、また、The New York Timesをはじめ、国内海外各メディアでもに取り上げられた。 また、チンパンジーの感情生起に伴う生理反応(興奮)を、最新赤外線サーモカメラによる鼻部温度の計測で(接触端子を用いることなく)評価することに初めて成功した(Physiol & Behav, 2016)。具体的には、感情を生起する動画(同種のケンカ場面)を見せたときに、鼻の表面温度が摂氏1-2度程度低下することを見出した。この種の交感神経由来の生理反応を計測する難しさは、簡単な運動(たとえば歩く)によっても、同様の(温度低下)反応が生じることであった。しかしこの研究では、注意深い観察によって、感情由来と運動由来の反応を確かに区別できることを見出した。この発見の重要性は、接触端子を用いて生理反応を計測することの難しい大型類人猿であっても、感情生理反応を研究する実用的な手段があることを示した点である。 外部資金については、研究スタート支援のあとに、若手Bを取得した。京阪神コンソーシアム事業における、特定助教に就任した(勤務地:熊本サンクチュアリ)。 教育への貢献として、熊本サンクチュアリにおける実習指導を行った。
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