消費財と投資財の異質性を明示的に考慮した貿易モデルを構築し、貿易パターンを通じて経済厚生に与える影響を計測した。単一財のモデルのもとで各国間の経済厚生を説明する最大の要因である全要素生産性の国際間のバラつきが、財の異質性を考慮することにより30%程度説明できることが明らかになった。これは、単一財のモデルで捨象されている異質性を持った財の貿易が、各国のGDPのデータを説明するに当たって重要な説明要因となることを示すとともに、貿易が経済厚生に与える影響を数量的に示したものである。 具体的には、とくにヨーロッパ各国のような高生産性国に地理的に近い国では、低い貿易費用を通じて安価な中間財を輸入できるために単一財モデルにおける全要素生産性と財の異質性を考慮した場合の全要素生産性の違いは大きくなること、逆にオセアニアのような地理的に隔離された国では財の異質性を考慮する効果が小さいことが示された。また、米国や日本のような人口の大きい国では、貿易を行わなかった場合でも多種類の財を生産できるために、貿易を行うことによる経済厚生の上昇が小国に比して小さいことが明らかになった。 また、関税引き下げが経済厚生に与える影響は数量的に小さいことが明らかになった。これは、先進国においては既に関税率が非常に低く、追加的な引き下げの効果は限られること、発展途上国においても、主要貿易相手が先進国であるために、関税の効果は小さいことによっている。 以上の分析において関税は、各国それぞれの最恵国待遇関税を用いており、自由貿易協定のみを考慮している。これは、最恵国待遇と自由貿易協定以外の原因から起こる関税の違いを捨象しており、分析に問題がありえる。そこで、将来的な発展として、特恵関税制度も考慮した分析を行うため、特恵関税制度に関する資料収集を行った。
|