国際私法の分野において、多角的法律関係の準拠法問題を扱う先行研究のほとんどは多角的法律関係の成立の準拠法に焦点を絞っており、不特定多数の投資家に受益証券を販売する信託のように、当事者の構成が短期間のうちに刻々と変化していく法律関係の準拠法問題は、これまで扱われてこなかった。他方、このような流動的多角的法律関係は近年増加しており、それをめぐる国際民事紛争解決のための法整備は喫緊の課題である。そこで、本研究は、流動的多角的法律関係に関する準拠法問題の解決方法を明らかにするための序論的研究に取り組むものである。 平成27年度の研究活動においては、流動的多角的法律関係に関する準拠法問題の解決において不可欠な法性決定問題について、各論研究と総論研究に取り組んだ。 第1に、各論研究として、特に法性決定の困難が顕著となる信託と法人について学説及び裁判例の分析に取り組んだ。特に、法人格否認が問題となった渉外判例の研究発表を行った(「外国法人を含む複数の法人に対して法人格否認の法理が適用された事例」渉外判例研究会(2016年3月・学習院大学))他、信託法学会の国際シンポジウムに翻訳者として携わり、比較信託法分野における最新の議論をフォローするよう努めた(翻訳原稿は「シンガポール信託法の過去・現在・未来について」信託法研究40号(2015年)31-42頁に掲載)。 第2に、総論研究として、法性決定理論再構築のために、写像・像・逆像概念の応用が有用であることを発見した。この成果は、研究会報告として発表することにより、外部からのコメントを仰いだ(「性質決定理論再構築のための予備的考察:写像・像・逆像概念を用いた国際私法の機能及び構造の把握」九州国際私法研究会(2015年12月・九州大学)及び「逆像概念を用いた法性決定理論再構築の可能性」講演会『性質決定研究の現在』(2015年8月・香川大学))。
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