研究課題/領域番号 |
26885052
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
菊池 雄太 香川大学, 経済学部, 講師 (00735566)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 商人 / ネットワーク / 制度経済学 / 西洋経済史 / 商業史 / ハンザ史 / バルト海貿易 / ハンブルク |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,近世北ドイツの商人ネットワークを,制度分析の理論を援用しつつ分析し,北ドイツにおける商業発展の背景のひとつを明らかにすることである。具体的な調査対象は,北ドイツ都市ハンブルクの商人ネットワークと商業制度である。本年度の研究目的は,商人ネットワークの広がりそのものを検出することであり,制度との関連は次年度の課題として残す予定であった。しかし実際に調査を行ったところ,研究課題の解明に有益な史料の発見・収集は順調に進み,商人ネットワークの検出のみならず,それと制度との関連について,予測したよりも早く論じることができた。 結論は以下のようになる。ハンブルクは外来商人の移住と商業活動を認める開放的な商業政策により,西欧商人の誘致に成功した。しかし,都市には外来商人の活動領域を制限する制度も同時に存在した。そのため,外来商人が扱う重要商品の一部の獲得・販売には,ハンブルクを含むハンザ諸都市の商人ネットワークによる仲介に依存する必要があった。ここにおいて,新しい商業ネットワークと伝統的商業ネットワークの制度による結びつきが見出される。 従来の研究は,ハンブルクの開放的な商業制度により,西欧経済先進国との新しい商業ネットワークが築かれ,それまで支配的であった中世ハンザの閉鎖的・旧来的な商業ネットワークは衰退したとする。本研究によってその見解は批判され,両者がハンブルクを基点として結びついたことが,制度との関連から証明された。これは,北方ヨーロッパの商業発展過程に関する新しい見解である。 以上の成果は,『香川大学経済論叢』第87巻第3・4号(平成27年)で論説として発表した。また,内定通知前であるが,商業制度に関する研究の一環としてハンブルク港湾制度に関する調査を行い,成果を国際商業史研究会,早稲田大学史学会で口頭発表した。それは論説としてまとめ,現在査読を受けている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」で述べたように,本研究課題の解明に必要な史料の調査・収集は予測した以上に順調に進み,当初の予定よりも一歩進んだ内容の論文を発表することができた。その点では,「当初の計画以上に進展している」と評価できる。 しかし一方で,北ドイツ・ハンザ商業史研究で近年注目を集めている,制度分析理論を用いた研究の動向をまとめた論文の作成が遅れた。その理由は,文献の入手そのものに予想以上の時間がかかったことである。研究文献の多くが洋書であり,いくつかの文献の到着が予想よりも大幅に遅れた(研究活動スタート支援という予算の性格上,文献入手請求が可能になったのがようやく10月下旬であったことも大きく影響している)。またいくつかの文献は絶版により大学図書館と業者を通じた注文ができず(その通知を受けたのも注文から数か月後であった),古本屋から個人で再度注文しなければならなかった。さらに,昨年度中に新たな重要文献が出版され,それを入手し精読する必要が生じた。 このような事情から,当初予定していた研究動向紹介論文の発表は遅れをとっている。今年度の早い段階での発表を予定している。当初の計画以上に進展している部分がある一方,若干の遅れをとっている部分もあるため,総合的に評価して現在までの達成度は「おおむね順調に進展している」とすることができる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究では,ハンブルク文書館に所蔵される商人書簡の調査と分析を中心とした研究を進める。商人書簡からは,個々の商人のネットワークが検出されるだけでなく,商取引の具体的な内容まで知ることができる。さらに,昨年の調査により新たに発見された帳簿の分析も進める。これら調査と分析を統合することで,ハンブルク商人の取引活動がどのような特徴を持っているのか,またそれは中世ハンザ商業時代から続く伝統的ネットワークとどのように結びついていたのかを明らかにすることができる。すなわち,ハンブルク商人が,中世から続くネットワークと近世に築かれた新しいネットワークをどのように結合して商業の拡大を果たしたのか,という視点から分析が進められる。 書簡史料の量は膨大であるため,相当量の史料を複写する必要がある。また,リューベックの文書館でも関連史料(ハンブルクとの商業に関する書簡)を調査・収集する。前項で述べた理由により前年度からの課題として残された,中近世ハンザ・北ドイツ商業史の制度分析的研究に関する研究動向をまとめた論文は,今年度の早い段階で完成させる必要がある。 4月時点で手元にある文書館複写史料の分析は7月までに終え,その成果をまとめる。8月には約1か月,ハンブルク文書館およびリューベック文書館で上述した史料調査を進める。史料の多くは複写(コピー,スキャン,写真撮影)し,9月以降はその分析を行う。作業は大学研究室のコンピュータおよび昨年度予算により購入したノートパソコンを用いて進める。分析結果は論文として発表する。年内完成が目標であるが,遅くとも年明け1月または2月中には脱稿する。 本研究成果は,論文の形のほか,研究代表者が来年度上旬までに出版を予定しているドイツ語研究書の一部ともなる予定である。
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