本研究課題の目的は2000年代の日本の参院選において改選数が不均一な選挙制度が主要政党間の選挙競争を大きく規定し,これが政党の配分する選挙資源やその結果として有権者の動員が低調に終わる地域を「人工的」に作り出したことを明らかにすることにある。 2015年度にはまず2014年度に行った研究に基づき,主要政党の党首の選挙区訪問の戦略的配分とこれに改選数が与えた影響についての論文を学会で報告,研究誌へと投稿した。この論文では自民党と民主党が参院選の選挙期間中に党首の選挙区訪問を“接戦”の選挙区へと配分したこと,ただし選挙戦が“接戦”となるか否かは政党間の当該選挙区における勢力のみにより決定されるのではなく改選数により規定されていることを示した。すなわちこの時期に両政党ともに一人ずつの候補しか擁立せず,選挙結果が事前に決定的であったほとんどの二人区においては,両政党ともに党首の選挙区訪問をほとんど配分しなかったのである。本論文は2015年9月の米国政治学会年次大会および10月の日本政治学会大会で報告し,現在研究誌に投稿中である。 さらに2015年度は上記の研究と並行して,政党による有権者の動員活動が上記の党首の選挙区訪問と同様に改選数の影響を強く受けていることを明らかにした。より具体的には参院選後の有権者調査を用いて政党による電話やビラなどを用いた接触・動員活動についての分析を行い,特に2007年と2010年参院選という自民党と民主党が参議院の過半数をめぐって主に一人区で激戦を繰り広げた選挙において,両政党ともに一人区において他の選挙区よりも相対的に高い有権者接触・動員を行っていたことを示した。この研究の成果は先日の2016年度日本選挙学会総会・研究会において報告し,本年度中に研究誌に投稿する予定である。
|