研究実績の概要 |
平成26年度は, 特許を保有する者が一人いる状況を考えた. この状況において, 先行研究は特許を保有しない者が一人いる場合の特許買い取り価格を最も低く抑えることが可能な特許買い取りメカニズムを提示している. しかしこの結果は, 特許を保有する者と保有しない者が共に特許の価値に関して完全に知っているという仮定の下で得られたものであった. そこで, 特許を保有しない者が特許の価値に関して完全には知らない場合, どのような特許買い取りメカニズムを構築すればよいか考えた.
まず, 特許を保有する者は製品を生産でき, 特許を保有しない者は生産できない状況を考えた. 特許が買い取られ, パブリック・ドメインに置かれた場合, 特許を保有しない者も製品を生産できるようになる. 既に特許を保有する企業は, 製品を生産するために必要となる自身の費用を知っているだけでなく, 新たに生産する者(特許を保有していなかった者)の費用も知っている一方, 特許を保有していなかった者は自身の費用のみを知っているという仮定の下で分析を行った.
一般に, 研究開発投資を行うことで新製品の開発に成功し, 特許を取得することが可能となる. そこで, 研究開発投資行動と特許買い取りメカニズムの関係について分析した. 具体的には, それぞれの企業が研究開発投資に関して意思決定を行う機会を設け, 特許買い取りメカニズムがある場合とない場合とを比較し, 研究開発投資行動にどのような違いがでるか調べた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本来, 特許が買い取られ, パブリック・ドメインに置かれた場合, 特許を保有していた企業であっても, 新たに製品を生産する者の費用を正確に知ることはできない. 従って, このような状況を分析するための枠組みが必要となるが, 平成26年度に取り組んだ分析は, 今後このような状況を分析するために必要となる枠組みを構築する際の基礎の役割を果たすものである.
特許を保有する者は製品を生産でき, 特許を保有しない者は生産できない状況の分析は, 生産技術に関する特許を想定する場合(すなわち, 特許を保有していなくても製品を生産することはできる場合)に, どのように分析を進めればよいか参考になる. また, 異なる性質を持つ特許を想定して分析を行うことで, 特許買い取りメカニズムと特許の性質との関係を明らかにすることが可能になる.
一般に, 研究開発投資を行うことで新製品の開発や新技術の確立に成功し, 特許を取得することが可能となる. そのため, 研究開発投資行動と特許買い取りメカニズムの関係について分析することが重要になると考えていたが, 強制実施権に関する現実の例を見ると, 追加的な研究開発投資を行う必要はない場合(自国で既に取得した特許を他国でも取得するような場合)にも, 特許買い取りメカニズムを適用できる可能性があることがわかった. これは, 特許買い取りメカニズムを導入できる状況が当初想定した以上に多いことを示唆している.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は, 引き続き, 特許を保有しない者が一人である状況を考えると共に, 新たに特許を保有しない者が二人以上いる状況を考える. 特許を保有しない者が二人以上いる場合, 特許を保有する者と特許を保有しない者との間の特許の価値に関する情報構造だけでなく, 特許を保有しない者同士の情報構造を考えなければならない. 平成26年度に取り組んだ分析を踏まえて, 様々な性質を持つ特許に適用可能な特許買い取りメカニズムの構築を目指す. 特許を保有しない者が一人である状況と同様に, 研究開発投資行動と特許買い取りメカニズムの関係についても明らかにする.
加えて, 平成27年度はヒアリング調査を行う. 平成25年7月に産業革新機構はある特許ファンドへ出資することを発表した. この特許ファンドは, 電機産業の日本企業が保有する未利用の特許を買い取り, 新興国企業に利用させることで収益を上げることに取り組んでいる. このようなファンドが特許を買い取る場合にも, 特許の価値をどのように評価するかということが問題となる. どのような方法で特許の買い取り額を決定しているのかということや, 本研究で考える特許買い取りメカニズムが実務上どのような問題を抱えているかなど, 意見を伺う.
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