前年までに検討してきた学校カリキュラムを構成する四類型、すなわち教科(学問中心)主義、子ども中心主義、社会改造主義、社会効率主義の区分に基づいて、近代学校教育における原理的な要請について検討し、美術教育実践をとりまく研究の政策的方向性について考察した。 第一に、近代憲法における学校教育原理に遡って、市民ないし市民社会に照準したカリキュラムについて検討した。そこでは、国家行政における分化原理に対応した教科主義の論理と、市民社会を構成する中間集団としての地域共同体に対応した社会改造主義の論理について特に取りあげた。 第二に、今日的な教科主義が取りうる論理として、統合型教科主義という概念を提示した。そこでは、[学校教育課程、教科、上位項目、下位項目]へと分化していく教育行政システムについて、既存の教科主義を下位項目に焦点化する分科型教科主義とした。そして、教育改革下における美術科としての独自性を担保する上で、美術科内の多様な内容に通底する造形性を核として、学習指導における有機的な系統性連続性を可能とする統合型教科主義の論理を示した。 第三に、美術科教育学そのものが学問として分化した経緯について検討した。美術科教育学は、初期の美学・美術史学の学的訓練を受け、人文科学的研究知を充実させてきたという学問としての発展段階にあるが、教育改革に対する批判的視座の獲得という点では社会科学的・政策科学的研究知の蓄積が求められる状況にあることを指摘した。
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