研究課題/領域番号 |
26885066
|
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
黒木 淳 大阪市立大学, 大学院経営学研究科, 特任講師 (00736689)
|
研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
|
キーワード | 会計学 / 非営利組織 / 公会計 |
研究実績の概要 |
本研究は、「なぜわが国の私立大学が基本財産を保有し、資産運用 (資産保有・運用) するのか」という研究課題に対して、「わが国の私立大学は資産保有・運用することによって、当該大学の財務健全性を高め、それをシグナルすることによって学生・寄附者を追加的に獲得している」とする「財務健全性シグナリング仮説」を、大量データを用いて実証分析することを目的とする。 その初年度にあたる今年度は、検証の準備段階であり、1.大量データのサンプルを構築すること、および2.財務健全性シグナリング仮説の妥当性や、他の代替仮説を探ることを目的として、10大学程度を対象としたインタビュー調査を実施した。さらに、3.(1) 基本財産を保有し資産運用成果の高い私立大学と教育研究水準が関連しているか否か、及び(2) 基本財産を保有し資産運用成果の高い私立大学と学生・寄附者の追加的な獲得が関連しているか否か、の2つの研究課題を解明する下準備として、私立大学の「基本金組入」の実態分析およびそれを用いた裁量行動の分析を行った。 本年度得られた結果は、次のとおり要約することができる。1.2008年3月期から2013年3月期までの私立大学財務データベースを構築したこと。2.資産保有・運用では、私立大学特有の「基本金組入」と「特定引当金」が活用されていること、および第1号から第4号までの基本金の特徴に合わせて運用が行われていること。3.裁量性の高い基本金組入である第2号および第3号の組入は、約半数の私立大学で行われていること、組入前の収支差額はゼロ周辺においてスムーズな分布を示すことが観察されたが、組入後は収支差額がプラスの分布において、利益減少型の裁量行動が観察されたこと。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、検証を先に実施し、その代替的手法としてインタビュー調査を計画していた。しかし、データ購入に想定以上に時間がかかり、また検証結果の妥当性を先に予測した方が望ましいと考えたことから、私立大学の財務部長等へのインタビュー調査を先に実施した。当初は5大学程度の私立大学の財務部長にインタビュー調査を計画していたが、思った以上に協力が得られたため、10大学にインタビュー調査を実施した。 インタビュー調査の結果、私立大学の資産保有・運用には想定以上にさまざまな要因が関連していることがわかった。財務健全性シグナリング仮説に対立する仮説は少ないが、複合仮説とならないようにロバスト・チェックしていく必要性が示唆された点で、本調査結果は非常に有意義なものであった。 また、財務諸表データベースは時間をかけて構築したことから、7カ年の財務データで構成される非常に精度の高いものとなった。今後、2年目にかけて具体的な検証を実施してくが、検証レベルの高い結果を導出できると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
先述したが、これまで得られた研究成果は次のとおりである。a) 2008年3月期から2013年3月期までの私立大学財務データベースを構築したこと。b) 資産保有・運用では、私立大学特有の「基本金組入」と「特定引当金」が活用されていること、および第1号から第4号までの基本金の特徴に合わせて運用が行われていること。c) 裁量性の高い基本金組入である第2号および第3号の組入は、約半数の私立大学で行われていること、組入前の収支差額はゼロ周辺においてスムーズな分布を示すことが観察されたが、組入後は収支差額がプラスの分布において、利益減少型の裁量行動が観察されたこと。 今後は、これらの調査結果にもとづき、a) で構築した財務データベースを用いて、c) 裁量性の高い基本金組入が用いられる知見を生かして、(1) 基本財産を保有し資産運用成果の高い私立大学と教育研究水準が関連しているか否か、及び(2) 基本財産を保有し資産運用成果の高い私立大学と学生・寄附者の追加的な獲得が関連しているか否かについての検証を実施する予定である。
|