本研究では、サステナビリティ報告の対象箇所「環境報告」に先行研究で分析対象とされていない「トップメッセージ」、「社会報告」を加えた3カ所の記述的表現を分析対象とし、それぞれの報告箇所に対応する環境、社会、ガバナンスパフォーマンスとの関連を検証した。パフォーマンスの悪い時に楽観的で曖昧な表現を使用する傾向が示されたのは、トップメッセージのみで、環境報告や社会報告に関しては、悪いパフォーマンスと記述的表現との関係については明らかにされなかった。トップメッセージに関しては、環境・社会報告と違い、表や図を用いた活動実績の報告はそもそも存在しなく、記述的表現を中心とした報告パートとなる。そのため、言葉のトーンや単語の選択による読者への印象管理が行われる誘因が環境・社会活動の報告パートと違い起こりうることが本研究の分析結果から示された。他方で、環境報告や社会報告では記述的表現への影響について先行研究のようにパフォーマンスによるものではなく、ステイクホルダーやガイドライン、産業等での企業特性による影響が示された。これは環境報告や社会報告はその活動実績や指標の開示とともに記述的表現が使用されることもあり、事実に基づき、活動実績への読者の解釈を促進させるような表現が適切に使用されることが良いと考えられるが、特定の企業によっては記述的表現に楽観的で曖昧な表現や確からしい表現を使う傾向が見られることは、一部分の表現次第で読者の誤解を生じさせかねないことが懸念される。このように本論文ではサステナビリティ報告の報告箇所別、外部への積極的な情報開示の実施や産業の特性による記述的表現のレトリカルな使用の違いを明らかにした。この点はサステナビリティ報告の記述的表現分析の研究領域における新しい貢献と言える。
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