「選択行動・意思決定現象への進化論的モデルの展開」と題された本申請では、選択行動・意思決定研究における標準モデルとされている「価値(Value)」への問題を提起し、その代替案として、進化論の視点を取り入れたコピーイスト(copyist)モデルを提示することであった。前年度に引き続き、「切り替え遅延」(選択肢を切り替えた直後に報酬が呈示されることで切り替え行動が増えるが、これを抑える手続き)、「切り替え所要時間」(選択肢を切り替える際にどれぐらいの時間を要するか)、「スケジュール」(報酬呈示が行動頻度に依存するタイプと時間経過に依存するタイプ)といった重要変数に関わる先行研究のデータを次々と整理した。そしてそれらを説明するために、Tanno & Silberberg (2012) で提示したコピーイストモデルを修正した。具体的には、これまでのモデルでは、選択肢の位置(どの選択肢に反応するか)と反応時間(どのくらいの速さで反応するか)の2種類のみに注目していた。本研究では、この2つに加え、次の反応は現在選択している選択肢と同じか、それとも他方に切り替えるか、という情報も加味するよう修正した。この修正版コピーイストモデル(コピーイストモデルIIと命名)は、これまで以上に、選択行動・意思決定の実験場面で得られてきた多くのデータの説明を可能にした。以上より本研究では、選択行動。意思決定現象を説明する新たなモデルとして、進化論の視点を取り入れたコピーイストモデルを提示することに成功した。
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