本研究は慰霊碑・歴史館など戦争の痕跡が残されている戦争記憶空間を、戦争体験者不在時代の主要な「戦争の記憶」継承を担う場として位置づけ、1.戦争記憶空間が戦争に抵抗する継承・教育メディアとして機能する条件、2.その効果を補強する教育的援助の在り方を解明する目的で進められた。 本研究は沖縄県立平和祈念資料館と韓国ナヌムの家「日本軍「慰安婦」歴史博物館」を主要な研究対象館とするフィールド調査による日韓比較メディア研究を中心的手法とした。しかしナヌムの家が改修工事期間にあたった上、トラブルに見まわれ大幅に工事が遅れたため、韓国調査が最終年度にあたる27年度末まで実施できない状況を有した。 以上により最終年度は、26年度に引き続きフィールド調査を継続しながら、主に26年度から27年度前半までに行った沖縄フィールドワークを中心とする調査を通して導出された結果を総括し研究成果をまとめた。主要な研究成果はハンナ・アレントによる諸概念の有効性が導出される形で、次の2点が明らかになった。①上記の「1」の条件は、「われわれ」と「彼ら」という人々の思考に暗黙に引かれた境界線をまたぎ越し「関係の網の目」として「戦争の記憶」を継承する効果が得られる場合であり、②上記の「2」には、一般的な「戦争の記憶=ナショナルメモリー」継承内容から排除される「不在の人々」を想起させる教育実践が必要になる。以上の成果を教育哲学会第58回大会にて口頭発表すると共にフィールド先へ報告した。沖縄県立平和祈念資料館では、今後の館運営の思想的基盤として受け止めるとのご評価をいただき、本研究の目的である実践現場への普及に一定の貢献ができたと考える。また上記の成果は東アジア全体で共有できる記憶継承の可能性を見いだしたと言え、その結果、平成28年度科学研究費助成事業の挑戦的萌芽研究(課題番号:16K13533)を得られることとなった。
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