研究課題/領域番号 |
26885080
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研究機関 | 国士舘大学 |
研究代表者 |
羽山 裕子 国士舘大学, 文学部, 講師 (20737192)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | Response to Intervention / 学習障害 / アメリカ合衆国 |
研究実績の概要 |
本年度はResponse to Intervention(以下、RTI)のアメリカ学習障害研究内での位置づけの解明を目指し、以下のⅰ)~ⅲ)が達成された。 ⅰ)RTI支持者の主張の分析。 主要な論者であるフクスら(Fuchs, D. & Fuchs, L.S.)およびヴォーン(Vaughn, S.)の業績を中心に分析を行った。分析の結果、特にフクスらについては専門性の向上よりも実行可能性に重きを置いて研究を進めていることがわかった。このような方針は、指導方法や測定方法の定式化や電子化の方向性へと向かい、子どもの読み書き能力の量的把握へとつながっていた。 ⅱ)RTIの発展と現状に関する網羅的調査。 研究計画では、70年代後半~90年代の学習障害関連学術誌を対象とした網羅的調査を行うことを目指していたが、RTI普及から10年が経つ中で様々な変化が現れていることを勘案し、調査範囲を現在にまで広げて、a)RTI開発の背景にある学習障害研究の構図とb)RTIの普及後の実践及び位置づけの変化の双方を検討することとした。 a)に関しては、RTIにつながる論者たちの背景として1970年代以降のミネソタ大学での学習障害研究の存在が示唆されていること(干川、2014)に注目し、当時全米5大学に設けられた学習障害研究機関について検討を進めた。一部資料の収集が困難であること、また1990年代の多層指導モデルとの関連性を検討する必要があることなどから、現在も検討を継続している。 b)に関しては、RTIの対象児が障害種の面でも年齢の面でも拡大していることが近年の傾向として判明した。前者については、Positive Behavior Support(以下、PBS)との連携が見られ、学術誌上ではRTIという大きな枠組みの下でPBSを実践するという関係で説明がなされていた。ただし、普及時期の前後関係を勘案すると、この説は更なる検討が必要であると判断された。後者については、中等教育段階での実践モデルと従来のRTIとの相違が論点となっていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度当初の研究計画では、ⅰ)RTIの支持者たちの過去の研究蓄積の分析、ⅱ)RTIの批判者たちの過去の研究蓄積の分析、ⅲ)1970年代~90年代のアメリカにおける学習障害研究の網羅的分析の三点を挙げていた。 このうち、ⅰ)について年度当初の研究計画ではフクスら(Fuchs, D. & Fuchs, L.S.)のみを検討対象として挙げていたが、ヴォーン(Vaughn, S.)も同様に重要な論者であると考え、検討対象を拡大した。また、ⅲ)については、RTIの現在進行形の変化も視野に入れて検討を行う必要があると判断したため、検討年代を現在まで拡大した。 以上の結果として、a)アメリカの学習障害研究の構図をとらえるうえで、1970年代以降の5大学の学習障害研究施設の詳細検討が必要であること、またb)RTIと類似のモデルを用いて、初等教育段階以外や学習障害以外について対応しているプログラムの検討が必要であることが新たに見出された。なお、ⅰ)、ⅲ)の検討範囲拡大の結果として、ⅱ)については今年度は十分な検討が進められなかった。ただし、先述のようにアメリカの学習障害研究の構図をとらえるうえでの視角が絞られたので、次年度以降、この視角のもとでⅱ)に当たる内容を効率的に検討していくことが可能であると思われる。
以上より、一部計画の未達成はあるが、他の計画が予定以上に進められたこと、その結果が未達成部分の今後の進捗を推進するものであることから、全体としてはおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果をもとにして、次年度以降は以下の課題に取り組む予定である。 ⅰ)RTIに対して批判的な見解を述べている論者の理論的背景を整理する。この検討は、本年度の研究課題のうち遂行が不十分であったものである。 ⅱ)1970年代~80年代のアメリカにおいて、大学附属機関において進められた学習障害研究に注目し、そこでの主張とその後の展開を分析する。この検討は、当時の大学ごとの研究動向が現在のRTI理論に接続していく可能性が見出された手、必要であると考えた。 ⅲ)各州レベルでのRTIへの取り組みを収集・整理し、現在のアメリカにおけるRTIの実態を明らかにする作業に取り組む。この検討は、学術論文をもとに導きだしたRTIと他プログラムとの関連性が、実践上の現実とは異なる可能性が見出されたため、必要であると考えた。
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