研究課題/領域番号 |
26885086
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
千葉 貴宏 東洋大学, 経営学部, 助教 (60732758)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | サービス / 顧客満足 / 再購買意図 |
研究実績の概要 |
既存のサービス・マーケティング研究は,媒介変数や調整変数を伴って顧客満足が再購買意図に常に正の影響を及ぼすと主張してきた。他方,サービスのタイプによってはそうであるとは限らない。そこで本研究は,サービスのタイプを考慮に入れたうえで,満足と再購買の影響関係を整理することを目指して展開されている。 第1に,満足と再購買の関係についての既存研究を扱ったレビュー論文を執筆し,学内紀要に投稿・掲載した。そこでは,既存研究によって満足と再購買の媒介変数として挙げられてきた「信頼」と「コミットメント」は,二律背反であるがゆえに同時的にモデルに組み込むことはできないということを指摘した。既存研究がモデルの経験的な吟味を急ぐあまりに,信頼とコミットメントを概念的に吟味した研究は稀少であるという点で本成果は意義深いと考えられる。 第2に,外食サービスに代表されるような単数回消費を基本とするサービスのタイプについて,研究モデルを構築し,実証分析を行っている。そこでは,満足が高いと再購買意図も高いという従来の知見を導出する一方,高い満足は,次なる購買における高い期待というハードルを設定してしまうために,再購買を阻害しうるという新規の知見をも導出する目論見である。反復購買に対して満足が持つ負の影響を識別した研究は存在しないという点で本成果は意義あるものとなると考えられる。 第3に,洋服店での店員の情報提供サービスに代表されるような小売店舗内の情報提供に対する顧客満足の原因変数を探究する研究を行い,国際学会に投稿中である。そこでは,店員の情報提供という振る舞いは,優しさとして知覚されると,顧客に心理的負債を負わせることを通じて当の店員に対する低い満足に帰着しうるという知見を導出した。サービス品質が低い満足を導きうるということを心理的負債の導入によって初めて示したという点で本成果は意義深いと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究の目的は,サービスのタイプを考慮に入れたうえで,満足と再購買の影響関係を整理し,その関係を論理的および経験的に吟味することである。よって,研究の目的を達成するためには,サービスのタイプを適切に識別することが必要となる。 しかし,昨年度において,研究代表者が行おうとする研究の全体像に関して,サービスのタイプの識別やそれに基づいた仮説構築の展開に論理的な一貫性を欠いているという指摘を受け,かつ確かにそれらの指摘は的確であった。そこで,1.スイッチ費用(他社サービスへの切り替えに係る金銭的および非金銭的費用)が低いサービス,2.スイッチ費用が高いサービス,および3.複数回消費を必要とするサービス,という3種からなるサービス分類を,1.外食サービスに代表されるような単数回消費を基本とするサービスおよび2.スポーツジムや習い事に代表されるような複数回消費を必要とするサービス,という2種からなるサービス分類へと見直した。なぜなら,かつてのサービス分類において用いていたスイッチ費用という概念は,サービスのタイプの識別において重要視される指標ではなく,満足と再購買の調整変数(モデレーター)として重要視される指標であると既存研究によって考えられてきたためであった。 加えて,過去に取り組んできた顧客満足の規定要因に関する研究に対しても追加的な研究が必要となった。その追加的な研究においては,満足の対象として,サービス全体だけでなく,顧客による支払いを受けないような小売店舗での店員による情報提供サービスをも考慮に入れたうえでモデルを構築する必要があった。 研究構想全体の修正作業およびそれに加えて過去の研究の見直しに迫られたことに伴って,当初の研究目的の達成度に関して,遅れているという自己評価を下すに至った。
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今後の研究の推進方策 |
研究の目的を達成するため,今年度においては,1.マーケティングの方法論に関する研究(方法論研究),2.スポーツジムや習い事に代表されるような複数回消費を必要とするサービスに関する研究(実証研究)を実施し,全体的な修正を余儀なくされたために昨年度完遂できなかった博士学位請求論文の発表を目指す。 まず,1.方法論研究については,かねてからマーケティング研究者によって議論されてきた科学的立場や科学観を十分に踏まえたうえで,マーケティング領域において適切であると考えられる方法論を議論する。具体的には,マーケティング研究者が拠り所としてきた科学的立場,例えば,論理実証主義,論理経験主義,確証主義,反証主義,あるいは相対主義といった科学観の振り返り,いわゆる仮説検証型論文のように現実世界と照らした吟味を論理世界と照らした吟味ののちに行うことに対する正当化,および,マーケティング研究における実証分析の位置付けの再吟味等を行い,2015年9月に投稿締切をむかえ同年11月に刊行される本務校の学内紀要へ投稿する。 次に,2.実証研究については,既存モデルを十分に理解してそれに適切な批判を加えたうえで,代替案となる新モデルを構築する。具体的には,既存研究において一元的に扱われてきた顧客満足概念を,「顧客の能力向上を対象とする満足」(飽和)および「従業員によるサービスを対象とする満足」(従業員への満足)の2つに識別し,それらの対象ごとの満足が再購買意図に及ぼす正負の影響を論理的かつ経験的に吟味する。経験的な吟味すなわち実証分析に際しては,既存研究において用いられた質問項目に基づいて調査票を作成し,ウェブ調査会社を利用した消費者調査を実施し,2016年の1月から3月までの間に海外査読誌へ投稿する目論見である。
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