既存のサービス・マーケティング研究は,サービス水準が高まれば高まるほどに顧客満足も高まり,また,あるサービスへの顧客満足が高まれば高まるほどにそのサービスへの再購買の意図も高まるという通念に囚われたまま知識成長の場を逃してきたと指摘しうる。そこで拙論群においては,そうした諸点に一石を投じるべく理論的・実証的研究を行った。 洋服店や家電量販店において見られる小売従業員による顧客への無償の情報提供サービスは,一般的なサービス消費とは異なって,従業員のパフォーマンスについて期待を抱かせることがない。それどころか,顧客によっては,そうした無償の情報提供を積極的に避けることがあるほどであろう。拙論は,無償の情報提供サービスに対するこうした顧客の心理的負債をモデル化し,顧客満足の阻害要因として扱った。分析の結果,小売従業員の無償の情報提供サービスにおいてその従業員との関係性をいったん築いた顧客は,購買の有無にかかわらず心理的負債によって低い満足に帰着するという示唆が得られた。 加えて,顧客満足のあとに続く再購買という現象にも着目する必要がある。第1に,義務教育・大学教育以外の教育サービスや習い事といった顧客の能力向上に主眼を置いたサービスは,複数回のサービス消費を1セットの購買として設定している。こうしたサービスにおいては,顧客の能力向上という中心的なサービス属性の充足に対する顧客満足は,むしろ再購買意図を減じるという示唆が得られるだろう。第2に,通常の単数回消費を前提としたサービス消費では,サービスへの高い満足の経験によって高まった期待が消費へのハードルとなり,むしろ満足感を与えてくれた当のサービスの再購買を避けるかもしれないという示唆が得られるだろう。
|