昭和戦時期の日本政治について体制の破壊としての戦時体制という視点に囚われずに、同時代人が有していた一定の合理性を理解した上で、戦時体制の下での「国内の奇妙な安定」について検討していった。明治憲法体制が昭和期に破壊されたと考えてしまうと、戦争に伴って生じた国内の多くの政治的経済的摩擦に当時の日本でどのような解決が試みられていたのかが把握できなくなる。それを視野の外に置くことは政治史研究にとっては貴重な分析の機会を失うことにもなってしまう。 「軍部に対して政党も官僚も経済界も屈従したのだ」という一種の軍部万能論に基づいて「支配と抵抗」の状況を論ずるだけの戦時期研究では、説明できない側面が多くなり過ぎてしまう。実際には軍部の背景には社会変革を求める国民の声があり(これまで坂野潤治の研究などが指摘してきた側面である)、政治的な利益や負担の調整を求める声が存在したのである。それは平時と同様な秩序の存在が戦時においても求められていたということに他ならない。その様な視点に基づいて本年度も本研究の各部分の研究成果について公表の機会を得た。 また研究の遂行に際しては大阪・広島などで史料調査を実施し、昭和戦前期の政治・経済雑誌や論説、小冊子などの収集を行った。その他に2015年には『昭和立憲制の再建』の書評会(北大史学会・北海道歴史研究者協議会)を開催して頂いた札幌を訪問するなど、研究の視野を広げる機会を得られた。
|