平成27年度においては、前年度2~3月に実施した海外調査(パリ・ストラスブール)で入手した資料の分析・検討を中心に、研究を進めた。以前より交流のあるフランスの若手研究者らから提供された資料を用いつつ、我が国の法状況と比較しつつ、調査した。 我が国においては、複数当事者に権利義務が帰属する場合について、債権の担保力を強化するという視点ばかりを強調し、もっぱら債権者保護を中心に議論してきたと言ってよい。これは、我が国の民法学における議論が、「債権債務パラダイム」によって組み立てられてきたことを背景にするが、その債権債務関係の発生原因たる契約について分析する重要性については、顧みられてこなかったように思われる。このような「契約パラダイム」への転換という視点から複数当事者への権利義務帰属形式を見るに、債権の担保力強化を至上命題にした分析は問題の正確な把握の妨げであって、むしろ、複数の権利義務の当事者たる複数債権者・複数債務者間での利益のバランス調整という視点こそ強調されるべきであるという結論に至った。このような見解は、我が国でも若干見られたものであるが、必ずしも基礎的研究に裏打ちされたものではなかった。本研究課題においては、フランスにおける議論を参照した結果、我が国で見られるようになってきた新たな見解に根拠を与えることができたと考えている。 加えて、近時においては、裁判例を中心に、複数当事者への権利義務帰属が問題となった場面が散見されるようになっている。具体的には、金融機関への預金債権が共同相続によって複数当事者に帰属するようになった場合や、新たな技術によって開発された仮想通貨(ビットコイン)をめぐる問題などである。これらについても、裁判例の分析を通じて、問題意識を深めることができた。 なお、それぞれについては、各種研究会レベルにおいて個別に報告した際の成果を盛り込んでいる。
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