研究課題/領域番号 |
26885093
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
中山 代志子 早稲田大学, 法学学術院, 助教 (50386439)
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研究期間 (年度) |
2014-08-29 – 2016-03-31
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キーワード | 行政法 / 情報収集 / 行政調査 / 行政手続 / プライバシー / 自由 / 人権 |
研究実績の概要 |
1. 今年度における本研究の概要 本研究は、行政機関が行う情報収集を広く行政調査と捉え、行政目的と、調査による人権への影響との調整ルールを提示することを目的とする。刑事手続法との比較検討が研究目的の一段階であったところ、2014年度においては、刑事捜査分野を中心に、行政調査との境界領域における理論状況を究明した。特に、戦前から戦後にかけての警察組織による防犯・治安維持活動について知見を深め、その延長線上にある監視型調査をテーマに、判例を収集し、実態を検討した。これは、行政調査に関する行政分野別の現況把握として、研究の第一歩としての意義を有する。 また、本研究目的の一つとして、米国法の理論状況との比較があったところ、2014年度後半にかけて、米国憲法修正4条における監視調査に関する理論状況を研究し、日米を通じて有用な理論枠組みを検討した。憲法の視点からの考察はすでに存在するが、これを行政法の観点から応用する意義ある試みである。 2. 具体的成果 具体的には、判例研究会において、監視型調査の関連判例を検討発表し、評釈を執筆した(2015年公刊予定)。判例研究においては、調査過程における行政機関の裁量に対して、裁判所がどのように向き合うべきか、という視点で理論・実務を検討した。この検討の結果を、論稿にまとめ、博士論文の一部となす論文を、紀要に投稿した(2015年度掲載を見込む)。 また、監視型調査に関する米国の関連論稿を読了する中で、日米の理論的状況の相違を確認する一方、日米を通じて共通する問題を認識し、両者ともに問題解決に近づくための理論的考察を試みた。すなわち、監視型調査という調査類型の中にも、調査目的の具体性による分類が可能であることを指摘し、新たな理論構築を目指す。この成果は、2015年度の米国学会発表ならびに紀要(比較法学)にて公開される。食品行政に関しても検討を進めつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 2014年前半 2014年前半は、関連する基本文献の読了と、研究内容の具体化を行うための情報収集が中心であったが、刑事法、憲法、英米法の情報収集という、当初の目的に沿って、研究会発表準備、紀要執筆に取り組むことができた。特に、戦前・戦後を通じた政治状況、政治思想史について知見を深めたことは、行政法全般、ひいては憲法を中心とする法体系全体の中での行政調査論の位置付けについて考察するために重要な作業であった。 2. 2014年後半 2014年後半は、紀要を中心とする具体的な論稿執筆を通じて、研究を深めることができた。この作業を通じて、監視型調査とりわけ防犯・治安維持活動に関して一通りのまとめができた。また、食品行政における検査の実態について検討する機会を得て、台湾の国際学会における発表を行い、日台の研究者との交流を通じて、新たな視点を得ることもできた。食品行政における行政調査の研究は、2015年にさらに発展して行う予定である。さらに、米国の理論状況についても、当初の予定どおり多くの論稿を読了し、主要な論客の論旨について、把握することができた。この内容は、2015年に紀要に発表する論稿にまとめる予定である。紀要に投稿中の論稿においては、調査裁量の統制に関して新たな視点を提示した。 3.全般 全体として、2年の研究期間のうちの初年度に適した基礎的な作業を行うことができた。一方で、一定の対外発表成果も得られたことからすれば、概ね順調な進展と考える。もっとも、国内外の研究者との議論による研究の深化については、予定したようには進まなかったので、2015年にはこれを進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
1.当初予定の推進 当初の予定では、2015年度は、(1)海外での資料収集・研究者との情報交換、(2)博士論文執筆を主要な目標としていた。これは予定どおりに推進する。(1)については、5月に海外学会発表を行い、監視型調査に関する日米比較の研究成果を一部発表する。さらに内外の研究者との交流を深める。(2)については、諸分野の行政調査を比較検討するほか、行政調査一般に関する典型的な問題点を網羅的に総括する予定である。9月からは博士論文執筆に専念し、年内の提出を目指す。 2.当初予定からの変更 当初予定ではテロ対策、刑事手続との交錯分野の研究を進める予定であったが、すでにその部分は一定の成果を得たことから、上記の博士論文執筆の一環として、諸分野における調査実態の解明を進める。具体的には、2014年からの継続事項として、弁護士会研究部における取り組みを通じ、食品行政における調査実態を解明するほか、最近改正がなされた独禁法の手続規律について、他分野との比較を行いながら、検討する。また、当初はカナダとの比較検討も視野に入れていたが、米国との比較検討だけでも相当の時間を要すると思われるため、米国に焦点を絞って、深く比較法研究を行うこととする。
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